不毛な協定

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『じゃあ、課長はぁその代わりにのん(・・)の切り札になってくださぁい』 『切り札?』 ますます訝しげになった彼に『はぁい、そうですぅ』と返す。 『実はのん(・・)、今すぐにでもぉ結婚相手を作らなあかんのですぅ』 『……いくらなんでも、俺はおまえと結婚する気はないぞ』 『そんなん、のん(・・)もありませぇぇん』 こんな腹黒ヘタレ男と結婚するつもりなんてこっちだってない。いくら顔が良くても、同族嫌悪な相手なんてまっぴらごめんなんですぅっ! 『実はのん(・・)、大事な賭けの最中なんですぅ!』 『は?』 今度はハッキリと『意味が分からない』と顔に書いた課長に、あたしは自分が置かれている境遇をざっくり説明した。 実家は老舗料亭で、両親はあたしか姉のどちらかに婿を貰ってそこを継がせるつもりだということ。 だけど、あたしより圧倒的に出来の良い姉に、両親はそれを願っているはずで、実家から離れたあたしには関係のないことだと思っていたら、自分よりひと足早く大学を卒業した姉が家族に黙って海外に逃げてしまった、ということ。 (ライバル)は県どころか国だって飛び越えて逃げてしまった。音信不通というわけではないけれど、容易に連れ戻せる距離でもない。 あたしはこの二年、いつ姉が金髪碧眼の夫を連れて帰国するかと、戦々恐々の日々を送っているのだということも。 だから、姉からその報告が来る前に、自分が先に良い相手を見つけて結婚してしまわないと実家料亭に連れ戻されるであろう―――と。
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