不毛な協定

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『だからのん(・・)はぁ、姉よりも一分一秒でも早く結婚せえへんとぉ、実家に連れ戻されて親が用意した相手と結婚せなあかんくなるんですぅ……だからぁ、もしぃ実家から呼び出しがあったときはぁ、のん(・・)の婚約者のフリをしてくださぁい』 その“保険”があると思えば、切羽詰まった結婚相手探しにも少しは余裕が出来る。あたしだって焦って変なのを捕まえたくはない。 適当な相手じゃダメなのだ。ろくでもない男に引っかかったと分かったら、どんな手で別れさせられるか分かったもんじゃない。だから、両親がぐうの音も出ないほどのステータスのある男じゃないと。 これなら“winwin”ったい(・・)! そう思ったのに、課長は中々首を縦に振らない。あたしはダメ押しとばかりに顔の前で両手を合わせ、『お願いしますぅ、のん(・・)の人生賭けた切り札になってくださぁいぃ』と頭を下げた。 『……分かった』 『っ!』 『俺はおまえの切り札になってやろう』 課長の返事にあたしは思わず飛び上がった。 『やったぁ!ありがとうございます~っ!』 そう言って飛びついて、彼の頬にお礼のキスする。『おいっ、』と焦る声。あらら?意外とピュア? 彼の首に腕を回したまま、小首を傾げて『どうしはりましたぁ?』と可愛く訊いてみる。すぐそこにある彼の顔は、眉間は寄せられているけれど、口元はゆるむのが分かった。
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