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「これを俺に……?」
あたしがそれに頷くと、彼はペールブルーの小さな紙袋を手に取った。
「いらんのやったら別にえぇんですぅ」
敢えて素っ気なくそう言うと、彼が「ふっ」と息を吐くように笑う。
「そうか、明日は――いや、もう今日か、バレンタインは」
その言葉にあたしは内心ガックリと肩を落とした。
それがあったから“今日”なのかも、と淡い期待を抱いた自分がバカだった。
相変わらずあたしは学習しない。何度自分にガッカリすればいいんだろう。
ルームライトの光量を絞ったオレンジ色の部屋は、少し距離を空けるだけでお互いの表情を分かりにくくしてくれる。
でもそれでいい。―――ううん、それがいい。
今のあたしは、きっとひどく醜い顔をしているだろうから。
「ちゃんと味わってくださいよぉ?それ、高かったんですからぁ」
言いながら彼に背を向けベッドサイドに腰を下ろすと、腰と肩に彼の腕が巻き付いてきた。
「ああ、もちろん」
後ろから抱きしめられて、硬い胸板の感触が背中に伝わってくる。それもそのはず、彼の上半身は何も身に着けていない。あたしだって、無残に脱ぎ散らされていた下着をついさっき拾って身に着けたばかり。
「甘いものはあまり食べないが、ここのやつは結構好きなんだ。ありがとな、森」
―――知ってる。去年のバレンタインに静さんと話していたのを聞いたもん。
「だけどこんな高いものを……俺にそんな気を遣わなくて良かったんだぞ?」
「気ぃなんてぇ、」
『遣こぅてませんよぉ』―――そう続けようとした時、聞こえた言葉に、胸に針が差すような痛みが走った。
「俺たちは割り切った関係なんだろう?」
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