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「魔法使いの店」
静まった人間の巣窟に怒鳴り声が響くのを聞くのは何度目だろう。中々帰ってこないアリシアを迎えにその職場に足を運ぶと、外にまで聞こえてくる人の喚く声。またか、と僕は急いで中に入ると、1つだけ明かりのついた厨房に土下座をするアリシアと、声の主である女がいた。
「アリシア!!」
床に額をつけて必死に謝るアリシアに駆け寄ると、その体に出来た新しい痣を見た。きっとまたやられたんだ。
「またお前?邪魔するんじゃないわよ。二度と顔見せるなっていったでしょ。」
この食堂のオーナーである女は派手に着飾った身なりで大きな体を纏い、飛び出した腹の上から僕らを鋭く見下している。
「お前こそいい加減にしろよ!もうこんな酷い事する権利、お前にないだろ?!」
「はっ、よくいうわねえ。少し前まで私たちのいうことしか聞けなかった奴隷のくせに。私に楯突こうっての?お前もそれみたいにされたいのかしら?」
女はそういって手に持っていたおしおきの金属棒を振り上げた。
網膜に焼き付いているその光景が再び瞳に映り、全身の筋肉が緊張する。懐かしいはずなのに、全く愛惜の念を感じない。
「やめてください!!」
突然アリシアが頭を上げ、僕の前に腕を広げた。女は動きを止める。
「アノルは...アノルは関係ないですから...悪いのは私です。全部私が悪いです。本当に申し訳ございませんでした。」
アリシアはボロボロの体で、再び冷たい石の床に額をつけた。
何でいつも謝るんだよ。こんな奴に頭下げる必要なんてないのに。
それを見る度、僕の中は悔しさでいっぱいになる。
でもこれ以上女に反抗したら、アリシアがまた殴られる。それだけは、絶対にさせない。
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