2人が本棚に入れています
本棚に追加
「もういなくなったよ。」
いつまでも顔を上げないアリシアに、足音が聞こえなくなったので僕はそう教えた。
「ごめんね、また迷惑かけちゃって。おねえちゃん、またミスしちゃった。」
アリシアはそういいながらゆっくりと頭を上げる。その横顔は笑っていた。でも、何かを我慢しているような、そんな顔だった。
「だから謝るなって。アリシアは何も悪くないよ。全部あいつが悪いんだ。」
僕がいうと、アリシアは俯いたまま首を横に振る。
「私が悪いのは本当。それに、こんなにいっぱいミスしてるのに何だかんだ私を追い出さないから、あの方もきっといい人なのよ。」
「馬鹿言いうなよ!!あんな奴がいい人なわけないだろ?!
あいつはただ、アリシアを使ってるんだよ。アリシアは怒らないから、謝ってばっかりだから、あいつも調子に乗ってるだけだよ。だから...」
「はい!もうこの話は終わり!
あ、ご飯作らなきゃだね。お腹すいたでしょ?何食べたい?」
こんなところ早く辞めろといおうとした僕を、アリシアは明らめた顔で遮り、少しよろめきながら立ち上がってそういった。
「アリシア!」
「んー、昨日のスープまだ残ってたからぁ...」
アリシアはまるで僕の話を聞こうとしない。いつもそうだ。
もう奴隷でなくなったから、辞めたいならいつでもあいつのところから離れられるのに、アリシアはまるで見えない鎖に繋がれているようだ。
そんなアリシアは、この仕事を辞めろという僕がすごく嫌らしい。お金が稼げなくなるからとか、ずっとお世話になったからとか、変ないい訳ばかり並べてははぐらかそうとする。
最初のコメントを投稿しよう!