1話 オメガバース

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その人とはね……町を歩いていたときに出会ったの。私は散策が好きだったからそのときも……のんびり町を歩いていたんだけど……ふと何とも言えない感情が走ったのよ」 それは、落ち着いていられないほど……胸が熱くなり。けれどどこか懐かしくて泣きそうなそんな感覚だったと語る。 「おばあちゃんねびっくりして……訳もなく周りを見回したの。でも誰もいなかった……気のせいかって胸を落ち着けながら家に帰ろうとしたの。何だか恐くなって。でも……バカね。おばあちゃんその時に限って迷子になったのよ。いつもはならないのによっぽど呆けていたのね。いつもは使わない道に入ってしまったの」 恥ずかしいわぁ……とおばあちゃんは笑った。 「変な感情は全然収まらなくて、何かを探すように歩いてたの。迷子になってるのによ?ほんとに可笑しな話だわ……」 恥ずかしそうに、けれど幸せそうに話す祖母の姿はとても綺麗で暖かかった。 「そんなときね……『あの人』と出会ったの。可笑しな話その彼も、息を上げて走ってきたのよ。何かを探すように……」 不思議な感覚だったとおばあちゃんは言った。初対面であそこまで距離が近いなんて……あれがきっと……と祖母は微笑んだ。 「彼の視線に私が止まったの。そして私の目も彼に向いた。今なら分かるけど……当時はそんなものなかったから。お互い分からなかったの。その『感情』がどんなものかなんて。でも何故か惹かれて……しばらくお付き合いさせていただいたのよ。」
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