1話 オメガバース

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付き合い始めた彼らは、これまでにないほど幸せな毎日を送ったのだと言う。なぜかは分からない。けれど、いつも心が満たされこれ以上の幸せはないのだと……そう思うほどだったと。 「でも…おばあちゃん、おじいちゃんとはお仕事で出会ったって言ってなかった?」 私の祖父と祖母は仕事のさなか出会ったと聞いたことがある。 「……そうねぇ。おじいちゃんとはお仕事で出会ったわ。あーちゃん、おじいちゃんとね…お付き合いしていた人は、別人なのよ。」 「別の人?」 そうよ。と祖母は頷く。 「その頃はまだ、恋愛結婚なんて珍しい時代でね。お付き合いしていた方には許嫁がいらっしゃたの。私と彼は身分もかけ離れていたし……このまま結婚しても、お互い幸せになれるとは思えなかった。私達はお別れすることにしたの」 祖母の悲しみが伝わった。でも、清々しく後悔は微塵も感じない。 「憎く……ないの?その許嫁の人のこと」 「それがね、全然なの。私達、今では大親友なのよね」 運命って不思議だわぁ。そう笑いながら祖母は語る。 「許嫁のお嬢さんがね、とてもいい子で…結婚前に一度私に会いに来たの。彼との関係を知っていたのね。お嬢さんは彼のことを愛してた。でも、彼が望むなら…私に覚悟があるのなら…自分は大人しく身を引くって。そう言ったの。」 本で読むような、嫌な許嫁じゃなくて良かった…私はそう思った。 「それで……おばあちゃんはどうしたの?」 「お断りしたわ。その時はすでに彼とはよくよく話し合って、別れた後だったし。それに、別れたからと言って彼とは仲のいい友人に戻っただけ。別に寂しくはなかったのよ。」 「そっか……」
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