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「この花、きれいだね。去年の今頃も、いくつも咲いていたんだよ。これからもまた、この花を見たら、一年前のあの日のことを思い出しそう」
貴史は黙って頷いた。
普段、花に心を寄せることなどあまりない貴史だったが、赤や白の、どちらかといえば明るい色合いの花々が競い合う中で、紫色の花弁を精一杯広げ、際立った気品を漂わせているその花が、二人の未来にエールを送ってくれている気がした。
翌春、貴史は高校を卒業して、仙台の大学に通うようになった。
電車で1時間ちょっとという隔たりができたが、二人には障壁とはならなかった。
そして次の年、美沙紀も仙台市内にある別の大学に入った。
二人の日々は途切れることなく続き、これが永遠に続くものと疑わず、どちらともなく将来を共にすることを考えるようになっていた。
そんな二人に、突然の別れが訪れた。
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