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貴史は、二人がこちらにいることは以前から知っていた。
ただ、二人の連れ添う姿に何となく気後れを感じ、面と向かって言葉を交わすのは、今回が初めてだった。
「君が岩崎君か。よろしく。実は妻の亜珠沙が君とちょっと話してみたい、というんで声をかけさせてもらったんだ」
貴史は、少し緊張した面持ちでぎこちなく頷くと、亜珠沙の方に顔を向けた。
貴史は、野田亜珠沙を朝の通学のときに同じ電車で見かけたことが何度かあった。
制服姿が眩しく、きれいな人だと淡い憧れを抱いていたが、当時、高校に入って間もない貴史には、大人びて見えた彼女に声をかけることなどできるはずもなく、名前を知る由もなかった。
その彼女が誰かを教えてくれたのが、その後彼にとって忘れることのできない人となった彼女の妹、野田美沙紀だった。
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