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「いや、そ、そんなことないですよ。僕もその方が助かります」
千載一遇のチャンスに慌てながら、貴史は必死に笑顔を作って、彼女の申し出に応じた。
こんな形で初めて言葉を交わし、そして初めて隣合わせて座って、20分ほどを過ごした。
彼女は、今日は両親が二人とも出かけてしまって学校に車で送ってもらうこともできず、でも文化祭の発表の最後のリハーサルが午前中からあって、行かないわけにいかない、と話した。
貴史は、窓の外を過ぎていく人たちから視線を浴びせられている気がして、彼女の話に相槌を返すのが精一杯だった。
それでも、もし仔猫がしゃべったらこんなふうかと、初めて聞いた、耳をくすぐる彼女の声に心地よさを感じていた。
それからは、電車で顔を合わせると挨拶するようになり、やがて軽い会話を交わすようになった。
話すうちに、彼女から打ち明けられた。
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