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――実はあの日声をかけたのは、以前、校門のところで見かけたことがあって、大きな荷物を提げて坂を上がろうとしていたお婆さんに駆け寄って、その荷物を運んであげていたでしょ。
立派な人がうちの学校にいるなあと、そのとき感心したんです。それを覚えていて、あの日もあの人ならと思ったから。
彼女はそう言って、上目遣いの温かい視線を投げかけてくれた。
しかし実をいうと、そのお婆さんは高校の近くに住む貴史の祖母で、校門を出たら、偶然買物から帰る祖母を見つけ、下心のあった貴史は、すぐさま近寄って荷物を持ってあげた、というのが真相だった。
貴史は、友達の悠介と、夏休みに東京の方で毎年開催される音楽イベントに行く計画を練っていたが、軍資金が不足していた。
そこでその工面を、小さい頃からいつも可愛がってくれていた祖母に、母に内緒でお願いしようと思い立った。
そして、祖母を訪ねるタイミングを探っていたところに、運よく祖母と出会った。その日、無事に小遣いをもらい、計画も実現した。
しかし後日、母にばれて大いに叱られるはめになった。
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