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気付けば、夏の日差しが降り注いでいた。
めまいがするほど凶悪な暑さを誇る日だった。田舎町だというのにまるで都会の夏みたいにじりじりと熱気と湿気が体を包んで、不快感に今すぐ水を被りたいほどだった。体は汗でべたついて、のぼせた頭に蝉の鳴き声が響き渡ってとても不快だった。
道端に敷き詰められた砂利を踏んで、僕はなんでこんなところに居るんだろうと疑問に思った。見渡す限り目に映るのは畑か田んぼだらけで、少なくても家の近くにこんな場所はない。不思議に思って辺りを観察しているうちに、ようやくここは田舎の祖父母が住んでいる地域だと気付いたんだ。
でもおかしいんだ。祖父母の住んでいる場所は少しずつ開発が進んで、今はもう家がたくさん建っているはずなんだよ。こんな見渡す限りの田んぼ畑の光景じゃない。
そして僕は気付いてしまったんだ。ああ、これは僕が小さいころの景色なんだって。
あの子がさらわれた、夏の景色なんだって。
それに気付いた瞬間、心臓が大きく跳ねた。
心臓が苦しいくらいに高鳴っていて、僕は息ができないほどだった。なんで今まで気付かなかったんだろうって、頭の中がグルグルして倒れそうだった。
いつの間にか、僕の前には子供の姿があったんだ。
棒切れみたいに細い足。垂れがちな目。膝には転んでついたばかりの傷の痕。なにもかも、あの日から変わっていなかった。
僕の弟が、そこに立っていた。
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