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―…―
…
電車で揺られながら一時間と少し。
ようやく帰宅すると電池の切れたおもちゃのようにバタンとソファの上に座り込む。
夕飯を作ろうにも電車に揺られるだけで酷く体力が消耗されるから動けない。
元々一華は地元の不動産会社で働いていたが世界的な金融危機の煽りを受け、入社一年で倒産してしまった。
再就職先を探してはいたが、完全なる買い手市場のせいで不採用通知ばかりが届いた。
そのうち頑張ることにも疲れて、派遣会社に登録をした。
派遣会社が紹介してくれる仕事も倍率が高く、今のテレフォンアポインターの仕事で精一杯だった。
「あれ…」
郵便受けから取ってきた郵便物をソファの上で開封していると、そこには催促状も含まれていることに気が付く。
それは一華の抱えている借金返済の催促状だった。
「…足りない、よね」
途中まで切った封を開けるまでもなくそれをテーブルの上に放り投げると、目を閉じた。
借金を抱えたのはちょうど一年ほど前だった。一華には“親友”と呼べる友人が一人いた。
彼女は小学生のころからの友人で一番仲が良かった。しかし一年前に彼女から連帯保証人になってほしいと頼まれた。
昔から人を疑うことを知らない一華は、絶対に迷惑を掛けないという彼女の言葉を信じてサインをした。それから一か月後、親友は姿を消す。
残ったのは一千万の借金だけだった。
これを返すには、体を売るかそれか…―。
―婚活サイト
政府主導のそれを利用するしかない。結婚してしまえば、3000万は手に入る。
しかし、登録したところで相性のいいA以上の判定の男性がいる可能性は高くはない。
仮にいたとして、同じように登録をしていたとして…―。
“お金のため”と言って相手は了承してくれるだろうか。
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