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「実は、美世には今、検査入院と伝えたのだが…更に転移が見つかった。つまり、もう家には戻れないかもしれないんだ」
「…それって、」
「まぁ、人はいつか死ぬ。不思議と怖さはない。そもそも去年転移が見つかった時点で覚悟は決めていた。いい妻を持ち、いい子を持った。人並み以上の幸せを感じている」
お義父さんはそう言って過去を思い出すように窓の外へ目を向けた。
心拍数が上昇して、じんわりと変な汗が出る。
訊きたくないと心が叫んでいる。どうにかして治療をしたら助かるのではないか、今の日本の技術ならば助かるのではないか。
そう思いたかったが、お義父さんは既に未来が分かっているような口調だ。
「だが、そうだなぁ。一つだけ思い残すことがあるとするならばやはり美世だ。あの子は昔から友達も作らずずっと一人で。心配してこっそり学校に行って担任の先生に美世は大丈夫なのか聞いたこともある」
「そうねぇ。あの子は人と関わらないのよ。どこか大人びていて自然に周りの子と壁を作るのね。だけど親想いのいい子なのよ」
「…知って、います」
声が震えているのは俺だけだった。二人とも昔を懐かしむように話している。
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