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「美世がいつか大切な人を作ってくれることを願っていたんだ。別に結婚してほしいとか子供を作ってほしいとかそんなことは思っていない。ただ、たった一人でいいからあの子にとって大切な誰かを作ってほしいと思っていたんだ。それは恋人であってもいいし、友達でもいい。そう思っていたら、急に結婚したい人がいると君を連れてきた」
お義父さんは窓から目を移した。
白い歯を見せ、笑っている。
「嬉しいと同時に、どこか信じられなかった。タイミングが良すぎたんだ。私の体が悪いことを知って…すぐだったからね。もしかすると…」
それ以上は言わなかった。口を噤むお義父さんに俺は顔を横に振った。
「違います!めちゃくちゃ惚れているのは、僕なんです。僕は美世さんに二度、告白して振られています。一度目は高校生の時、二度目は大学生の時。彼女のことが忘れられなくて大学進学先を変えたほどです」
俺を見る目が大きく見開かれている。
おそらく、お義父さんは気づいている。美世が父親のために結婚したことを。
皆が優しすぎるのだ。皆が愛する人のために優しい嘘をつく。
涙が溢れていた。人前で泣くことなどもう随分なかったはずだ。
ボロボロと涙が溢れて止まらない。
「それでも美世さんのことを諦めきれずにいました。そうしたら社会人になってたまたま彼女と再会したんです。そこでもう一度彼女にアタックしました。何度かデートをしているうちに美世さんが告白を受けてくれました。だから、大丈夫です。僕たちは愛し合っています」
そう言うと、お義父さんは「そうか」と言って目を閉じた。
閉じられた瞳からすっと涙が零れていた。
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