3374人が本棚に入れています
本棚に追加
止めることの出来ない涙が頬を伝っていく。
何度も手の甲でそれを拭った。美世が来る前に、そう思い何とか涙を止めた。
数分後、美世が「買ってきたよ」と言って病室のドアを開けた。
「はい、これお父さんので。それからお母さんはコーヒーでいい?」
「ええ、ありがとう」
「怜君もコーヒー、無糖だよね」
そう言って俺に缶コーヒーを手渡す彼女の目尻が赤くなっていた。
「ありが…とう」
それを見た瞬間、強く胸が締め付けられる痛みが襲った。
多分、美世は病室のドア越しに今の会話を聞いていたのではないか。
深くは聞かなかった。
それから一時間ほど家族との時間を過ごしてから帰路についた。
その夜は、美世の口数はいつも以上に少なかった。上の空で、ずっと何かを考えているように思えた。その態度をみる限り、やはりあの会話は聞かれていたのだろう。
就寝時間が来て二人で広いベッドの上に体を預ける。
身体的な疲れというよりも、どうにもできない虚しさのせいで精神的に疲弊していた。
きっと、彼女もそうだろう。
「おやすみなさい」
「うん、おやすみ」
その一言の後、彼女からの反応はなくなった。
おそらく眠ったのだろうと思った。最近の日課である彼女が夜寝ている最中に手を握るという行為はもちろん今夜もする予定だった。
そっと起こさないように美世に近づき、俺の方へ体を向けながら眠っている彼女の手は枕元に置かれていた。
その手を握る。
今日は普段以上に強く握った。起きないように気を遣っているはずなのに、どうしてか強く握りたくなった。
と…―。
「っ…」
彼女が俺の手を握り返してきた。
最初のコメントを投稿しよう!