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すぐに手を離そうとした。
だが、彼女は俺の手を離そうとはしなかった。
目を丸くして、理解し難い状況を必死に頭の中で整理する。
「怜君」
「…美世?起きてたの?」
「うん。起きてた、ごめん。ほら、見て。大丈夫だよ…」
美世の瞳から涙が零れている。
ボロボロと大粒の涙を零しながら、彼女は言った。
「ようやく触れられた…」
「大丈夫なの?美世、だって…」
「ほら。大丈夫でしょ?何もないよ。私、怜君に触れたかったから嬉しい」
美世の言葉は嘘ではなかった。
だって、あまりにも嬉しそうであまりにも幸せそうに泣きながら笑っていたから。
「ありがとう。私、怜君のことが好きだよ」
「美世…が?」
彼女の手はずっと俺の手を強く握っていた。
まさかと思うほど現実的ではない言葉が彼女の口から出ると今度は俺の方が泣きそうになった。
「残念だけど、俺の方が美世のことは好きだよ。だって俺は高校生の時からずっと君を忘れられなかったのだから」
「うん、今日病室での会話聞いちゃって。お父さんに嘘ついてくれてありがとう。でも私のことが好きだって言うのは嘘じゃないだろうなって聞いていて思った。同時に、私もあなたのことが好きだって思った。順番は違ったけど、私…怜君とずっと一緒にいたい。ずっと好きでいるから傍にいて」
「もちろんだよ」
美世の手を握っていない方の手で彼女の頬に触れた。
一瞬ビクッと動くがすぐに美世が笑いかける。
俺は彼女にキスをして大丈夫かどうか聞いてから顔を近づける。
震える唇にそっと自分の唇を重ねた。触れるだけのキスだったが、何よりも幸せな一瞬だった。
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