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(01) 相談したい事があるんだ!
亜紀人は、壁掛けカレンダーを見て唇をギュッと結んだ。
「よし!」
手にはリボンのかかったプレゼントの包み。
亜紀人は、もう片方の手でメールを打つ。
『隆之介、今日は空いているか? 時間があったら少し会いたいのだが』
それを送信しようかと思った矢先に、当の隆之介から着信が有った。
通話ボタンを押すと、いつもの優しい声が耳に入る。
「あっ君? 良かった出て……相談したい事があるんだ! すぐに会いたい!」
「何!? なにか有ったのか? 待ってろ! 今どこだ!」
「いつものファミレスだよ……あと、相談内容は簡単にメールしておくね……」
亜紀人は、プレゼントの包をポケットに突っ込みながら走り出していた。
****
「す、すみません!」
通行人を蹴散らし、息を切らして走る亜紀人。
米田 亜紀人。
地元の中堅商社に勤務。営業職。
運動部出身で、ガタイがいい。
顔は、太い眉に切れ長の細い目、シュッとした輪郭で、年齢にして大人っぽい。
正義感に溢れ、友達思いのイケメン好男子である。
さて、そんな亜紀人の行く先に、目的地であるファミレスの看板が見えてきた。
亜紀人は、スピードを緩めることなく突っ走る。
「ったく! 隆之介、無事でいろよ!」
****
キー、バタン……。
亜紀人は、汗を拭いながら、ファミレスの入り口の扉を開けた。
そして、きょろきょろと見渡し、とある席に近寄った。
「はぁ、はぁ……隆之介! 何があった!」
「あっ君、早かったね!」
そこには、にっこり微笑む隆之介の姿があった。
橘 隆之介。
大手銀行の子会社に勤務。事務職。
男子にしては小柄。色白で線が細い。
ポワッとした優しい顔つきで、長めの前髪が目元にかかり、その奥にはどんぐりのようなつぶらな瞳が覗かせる。
性格は、おっとりとしていて、ママ味溢れる可愛い系男子である。
亜紀人と隆之介の関係は大学以来の親友。
共に、年齢は20歳代半ばで、社会人2年目。
この物語は、そんな二人の恋物語である。
****
隆之介の向いの席についた亜紀人は、平和そうに微笑む隆之介の顔を見つめた。
どう見ても緊迫した様子ではない。
亜紀人は怒鳴った。
「脅かすなよ! 何があったかと思って心配しただろ!」
「ふふふ。ごめんね。突然電話して」
隆之介は、手を合わせ片目を閉じて『ごめんなさい』のポーズをした。
亜紀人は、そんな隆之介の顔を見てしまうと、それ以上は強く怒れない。
「ったく、しょうがねぇなぁ……」
隆之介は、嬉しそうなキラキラした顔で微笑んだ。
「あっ君! ありがとう!」
亜紀人は、隆之介を睨む。
「で、本当に緊急事態じゃないんだな?」
「うん。ちょっと相談したかっただけ。メールにもそう書いたよ」
「メール!? そんなの見てねぇよ。急いで走ってきたんだから!」
「ふふふ。あっ君は本当におっちょこちょいなんだから」
「って、お前が言うなよ!」
コロコロ笑う隆之介。
亜紀人は、ふと気になって言った。
「それにしても……隆之介。お前、なんてつう格好しているんだ? パジャマか?」
「えっ?」
隆之介の服装は、ジャージの上下。
一方、亜紀人はスーツ姿。
「お、おかしいかな?」
「おかしいだろ普通……お前だって、今日仕事だったんだろ?」
「うん、ほら、ボクはリモートワークだから……」
亜紀人は、はぁ、と深いため息をついた。
「いいよな、事務仕事はよ。俺だってリモートだが、スーツは着ないとな。お客様と打ち合わせとかあるし」
「そっか、大変だね。でも、あっ君。カッコいいよ、スーツ姿」
「か、カッコよくなんかねぇよ……」
むふふ笑いで亜紀人を見つめる隆之介。
亜紀人は、誤魔化すようにお腹をさすった。
「そ、それより、腹減ったな」
「何か食べたら?」
「ああ……そうするかな……」
****
むしゃむしゃ……もぐもぐ……。
ハンバーグセットを頬張る亜紀人。
一方で、隆之介の視線が気になった。
「何、見てるんだよ、隆之介」
「ボク、あっ君の食べる姿見るの大好き!」
手を合わせて微笑む隆之介。
「な、そ、そうかよ……」
「ふふふ。ほっぺにご飯粒ついているよ」
手をすっと伸ばす隆之介。
「ば、ばか、いいんだよ。お前は俺のオカンか!」
「うん。ボクは、あっ君のお母さんだよ」
小首を傾げてにっこりと微笑む隆之介。
「アホか!」
亜紀人は頬を少し赤くしてそっぽを向いた。
****
お腹が膨れた亜紀人は、コーヒーカップをゆったりと口に運ぶ。
「で、隆之介。相談ってなんだよ」
「うん。実はね」
隆之介は、手の中の紅茶のカップをゆらゆらと揺らしながら見つめる。
「ボクさ、その、最近……」
「ああ、何だ」
「たたないんだ……」
「へ? 何がたたないんだ?」
顔を真っ赤にする隆之介。
「……おチンチン」
「ぶっ!!」
盛大に吹き出す亜紀人。
「お前、チンチン勃たなくなったって、本当かよ!」
「あっ君! しーっ!」
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