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ワイングラスを回して一口飲む。そのときテーブルの上に置いていたスマホが鳴った。画面には東条光と出ている。振られた彼女だ。凌也はどうしようか迷った末、電話に出た。今いる場所を訊かれたら嘘をつける自信がない。いや、もう別れたのだからどこで何をしようと自由だが。
「もしもし、凌也? ごめんなさいね。ゆっくりしている時間帯に掛けちゃって」
「ああ、いいよ。なにかあったのか?」
「知り合いに今日、元カレと首都高に居なかったかって訊かれて。否定してるんだけど納得してくれないの。凌也から説明してくれない?」
頭を後から殴られたような気がした。もう新しい彼氏ができたのだろうか。
「僕が首都高を光に似ている女性とドライブしていたから見間違えたのかもしれない」
「え、凌也、彼女できたの? よかった」
「ああ、光も彼氏ができたんだな。電話代われよ。説明するから」
「彼氏じゃないよ。医者。私、十万人に一人の珍しい病気だったの。明日は朝から検査で今日は大人しく家で寝てなくちゃいけなかったから」
光が病気? そんなこと思いもよらなかった。凌也は酔いが覚める。玲香が首を傾げて凌也を見ている。がさっと音がしたあと低い声の男の人が出た。
「凌也さんですか? 写真で知っていますよ。いや、学会で首都高を走っていたところ、光ちゃんと君が車に乗っているのを見てね。光ちゃんは明日、朝一番からハードな検査がいくつも入っているのですよ」
「貴方が見たのは光じゃありません。それよりどうしてこんな時間に二人でいるんですか? 光になにかあったんですか?」
「吐き気がすると言って救急に来たんです。吐き気止めを点滴したので、もう大丈夫でしょう。念のため病院には一泊してもらいますが」
もしかして別れると言った原因は病気なのか? だとしたら自分はバカだ。アンドロイドとデートして悲しみを癒やそうとしているなんて。
「光に代わってください」
「光ちゃんは切るように言っています。もうすぐ消灯ですし、用事があったら明日検査が終わる夕方以降に掛けてくださいね」
彼女が出来たように言ったのが間違いだったのか。でも凌也はその前に振られている。病気が理由じゃなくて単に嫌われた可能性だってある。医者だって妙に親しそうだった。
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