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洗面所を出て玲香に顎を見せた。玲香は目を見開いて言った。
「タクシーを呼んで救急病院に行きましょう」
「そうだな。玲香、充電は大丈夫か?」
「高速充電機なので八十パーセントまでできています。フロントに電話します。凌也、着替えることはできますか?」
「ああ、十分後に来るように言ってくれ。念のためチェックアウトする。玲香も荷物を忘れないようにな」
病院に一泊することにでもなったら大変だ。簡単な治療で終わったらマンションに帰ればいいだけにしておきたい。玲香は寝ないかもしれないがベッドを貸して自分はソファで寝てもいい。
フロントでチェックアウトするとすぐにタクシーが来た。ここから近い救急病院をお願いする。顎にはビニールに氷を入れてタオルでくるんだものをあてている。ずきずきずきずき痛い。タクシーは十回建て以上はありそうなやたら大きな大学病院の救急入り口に着いた。
受付を済ませ、玲香と長椅子に腰掛けていると二十分くらいで診察室に呼ばれた。二十代か若い女性の看護師と三十代後半に見える医師が顎を診てくれた。
「CTを撮ったほうがいいですね。ストレチャーで連れていきますのでベッドに寝ていてください」
そんな大袈裟にしなくてもいいのだが医者の言うことは聞いた方がいいという。凌也は診察室の隣の部屋にあるベッドに寝た。
ストレッチャーに移り看護師二人とCT室に入った。途中廊下で玲香にあったが言葉は交わさなかった。撮影が終わってまたベッドに寝ていると医師が呼んだ。
「骨折はしていませんね。打撲です。しばらくこぶのようになりますよ。痛みは酷いですか?」
「ええ」
「湿布を貼ってもらいますが点滴室で一晩様子をみましょう。よほど我慢できなかったら痛み止めも点滴しますよ」
「分かりました。一緒に来た女性が廊下に座っているので呼んでもらえますか?」
看護師が玲香を呼ぶ。凌也はマンションのカードキーとタクシー代を渡した。玲香は言った。
「付き添っていたらダメなのですか?」
「いいけど君が疲れるだろう」
「私は疲れることはありません。約束の明日の十二時まで傍にいます」
看護師は話を聞いているようだが何も言わない。凌也は訊いた。
「点滴に付き添いは可能ですか?」
「はい。パイプ椅子を用意しますね」
今度は車椅子で移動だ。白い壁に白い天井。自動販売機が並んでいる。途端に喉の渇きを覚えた。後で玲香にミネラルウォーターを買ってきてもらおう。
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