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レンタルアンドロイド屋から振られた彼女にそっくりの女性をレンタル予約した。三時に届くというのでもうすぐ来るだろう。パソコンで確認したがアンドロイドは人間に近いシリコンの皮膚に本物に限りなく近い眼球、歯はセラミックでできており、髪は人毛だという。精巧なAIだそうだ。だからなのか一泊二日のレンタルで十万だったが大手家電メーカーの設計職をしている松本凌也にはそれほど痛い出費ではない。
アンドロイドの名前は玲香だという。凌也は車をレンタルしドライブをし、シティホテルに一泊しようと思っていた。振られた彼女とはどこにも泊まったことはない。お互い二十五歳だというのに動物園に行っただけだった。でも凌也は彼女が自分のことを好きだという自信があった。さりげなく腕を組んできたり、ジュースの味が知りたいと言って間接キスをしたのは彼女のほうだったのだから。それがいきなり別れましょうなんてショックだ。
三時ちょうどにインターホンが鳴った。スピーカーに向かって返事をすると「GWLレンタルのものです」と返って来た。凌也はモニターをオンにする。小太りで背の低いスーツの男性と振られた彼女にそっくりな玲香が立っているのが分かった。ハイネックのニットワンピースの上にチェスターコートを着ている。白いニットにベージュのコートはいかにもお願いしておいた清楚系の服装だ。
凌也はドアを開けた。ここはマンションだが今日は平日なので家にいる人は少ない。それに都会のマンションに住む人は隣人のことなんか気にしない。
「どうぞ、中へ」
スリッパを二足だして凌也は二人を家の中に促した。レンタルアンドロイド屋はアンドロイドを借りるのに契約書が必要だと言ったからだ。1LDKのリビングに通すとグレーのソファに二人を座らせる。スーツの男性はビジネスバッグからA4の封筒を出した。
「これが契約書です」
「これに必要事項を書き込めばいいのですね。あ、お茶とコーヒーどちらがいいですか?」
「どうぞお構いなく。でも、ああ、コーヒーをください。玲香はアンドロイドなので飲めないですよ」
コーヒーはいつも豆から挽いてコーヒーメーカーで作っている。自分の会社が開発した最新式のコーヒーメーカーだ。凌也はキッチンへ行った。リビングとはカウンターで仕切られている。
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