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……っ!?
ベルモアは、カッと目を見開いた。
目の前まで迫っていた斬撃を身をひるがえして紙一重でかわす。
空を切った剣は背後の木の幹に深々と刺さった。
剣が抜けずに戸惑う骸骨を捨て置いて駆け出す。
ベルモアの目には力が戻っていた。
ーーこれは歌声じゃない。呪文の詠唱だ!
つまり近くに魔術師がいる。
アンデッドを操る魔術師『死霊使い』か?
死霊使いがいて、この骸骨たちを操っているとなれば、話は変わってくる。
死霊使いを倒せば、骸骨たちは動かないただの屍に戻る。
すべてが終わるのだ。
ベルモアは行く手を阻む骸骨たちを蹴散らし、呪文の詠唱が聞こえる方へ走った。
木々が生えてない開けた場所に出た。
地面に魔法陣が描いてあった。
幾重にも重なる円環に古代文字が書いてある。
頭上から差し込む月光の下、そこだけ森から切り抜かれ、異空間のようになったサークルの中央に、こちらに背を向けて呪文の詠唱を続けているローブ姿の男がいた。
間違いない。
こいつが骸骨を操っている死霊使いだ。
「そこをどけ!」
確信したベルモアは最後の気力を振り絞って骸骨を押しのけ、魔法陣の中へ飛び込もうとする。
ローブの男がベルモアに気づいた。
歌うように唱えていた呪文の詠唱を止め、こちらを振り返った。
頬のこけた不健康そうな痩せぎすの男だった。
ベルモアに驚き、ぎょっと目をむいたのが確認できた。
あともう少し……
あともう少しで魔方陣の中だ。
だがその手前でベルモアは地面に倒れ込んだ。
見れば、骸骨のひとりがベルモアの足を摑んでいた。
くそっ!
あともう少しだっていうのに!
遠のく意識の中、ベルモアは悔しげに唇を噛みしめていた。
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