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いやいやいや待て待て待て
落ち着こう、状況を整理しよう。
まず、僕の運命の赤い糸が蓮さんに
繋がっていて、それはつまり蓮さんが
僕の運命の人ってことで…、
「いや意味分かんないってっ!! 」
あまりにあり得ない事実に
思わずそう叫んでしまっていると、
隣を歩いていた蓮さんが驚いた
ように笑って僕に問いかける。
「なに? 斗真、何か今日変だね」
その言葉で僕は少し冷静になる。
ふー、と深呼吸して僕は考える。
そうだ、運命の赤い糸っていうのは
あくまで僕の仮説であって、もしかすると他の意味があるかもだし。
うん、少しだけ楽になったかも。
…赤い糸さえ見えなければなあ。
そう考えることにした僕は心配して
くれている蓮さんに答えた。
「いや、何でもないですよ、
さっ、はやく学校行きましょ!」
「…ならいいけどさ」
蓮さんが空気が読める人で良かった、
それ以上聞いてこない蓮さんの気遣いに僕は心から感謝した。
とりあえず、今日1日頑張るぞ!
そう僕は自分を鼓舞した。
「…俺に言えないことなんだ、?」
そうぼそ、と呟いた蓮の声は
斗真の耳には届くことはなかった。
授業終わりのお昼休みの教室、
隣のクラスから来た人たちとうちの
クラスの人がふざけ合っていて騒がしい。スクールカースト上位に位置する
いわゆる陽キャと呼ばれる彼ら達を
横目に、僕は目の前でがぶり、と焼きそばパンにかぶり付いた伊織くんを見る。彼もその一人だ。
勿論彼の小指にも赤い糸は結ばれて
いる。教室全体を見回すと赤い糸が
ふよふよと空中を漂っている。どこを見てもこの糸が目に入るせいかメロンパンが美味しくなく感じた。
「…ねえ伊織くん? 」
「はいはーい、どしたのー? 」
むぐむぐと焼きそばパンを
頬張ってる伊織くんに声をかけた。
すると、ぱっ、と顔を上げた伊織
くんはにっこりと笑って返した。
僕はちょいちょいと手招きをして、
伊織くんの耳に口を寄せた。
「あ、あのさ…」
「うん?」
こそこそと小さな声で言えば、
何だか悪いことをしている気分だ。
実際聞かれたら恥ずかしい話な訳
だし、嫌なことではあるけど。
「赤い糸、って信じる、? 」
「え、それってまさか運命のぉ? 」
冗談のつもりで言ったのだろう、
あはは、と笑いながら言った伊織くんは僕が俯いて黙り込んでしまった僕を見て え、まじのやつなの? と
言って、突然黙り込んでしまった。
うわあぁあぁぁ、恥ずかしい…。
そんな僕を見ていた伊織くんは
数秒後、壊れたおもちゃのように
けらけらと笑い出した。
「何、少女マンガでも読んだぁ? 」
「なっ、読んでないよっ、!」
僕が何かしらに影響されたのかと
思ったのだろう、伊織くんの言葉に
恥ずかしくなってそう言い返すと、
にやりと伊織くんは笑って言う。
「でも、なんでそんな急に? 」
「え、あぁ、いやあ…」
伊織くんの言葉に思わず
反応して変にたじろいでしまう。
さすがに糸のことは言えない…。
ぽつりぽつり、と単語を呟く僕に
伊織くんはさらに問い詰める。
「まさかまさかぁ? 」
そう言いながらじりじりと
顔を近づける伊織くんから僕は
椅子を後ろへずらして後退りする。
何だか変に冷や汗が出てきて、
自分の顔からさぁーっ、と
血の気が引いていくのが分かる。
伊織くん、まさか気付いてる…?
「斗真くんにもついに好きなひ
「ちがぁぁぁああうっ、!! 」
伊織くんの言葉についつい
蓮さんを思い浮かべてしまった僕は、思わず椅子から立ち上がって、
伊織くんの言葉を遮って叫んだ。
つい大声を出してしまった僕を
驚いたような顔をした伊織くんが
ぽかん、として見つめている。
それどころか教室中が一瞬、
ぴたりと無言になってここに居る
全員の視線が僕に注がれていた。
目立つことが大の苦手な僕は
全身の血が沸騰したようにぶわっ、と熱くなって、泣きそうになる。
身体の温度が急激に上がって顔が
真っ赤になっていくのが分かった。
僕は静かに椅子に腰を下ろした。
すると、数秒後には教室はゆっくりと騒がしさを取り戻していった。
すると僕を見ていた伊織くんが
突然僕の頭をぽん、と叩いた。
「や、ごめんね」
「え、ぁ、別に大丈夫だよ? 」
しゅん、と悲しげに眉を下げた
伊織くんに居たたまれなくなって、
そう言葉を返せば、伊織くんは
さっきまでの悲しげな顔がまるで
嘘のようににっこりと笑った。
…あれ、さっきの顔まさか嘘、?
すると伊織くんは僕の頭に手をのばし、優しくよしよし、と撫でた。
「言いたくなった時でいいよ」
「…ありがとう」
伊織くんなりに察してくれた
彼の優しさに感謝の言葉を述べた。
やっぱり僕はいい友達をもった。
しみじみとそう考えている僕に
伊織くんが話しかけてきた。
「ね、残りのメロンパンはやく
食べないとあと3分で授業だよ 」
「あっ、」
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