突然赤い糸が見えるようになりまして

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僕の周りをさまようように 浮かんでいる赤い糸はどうやら 本当に運命の赤い糸らしい。 そんな馬鹿みたいな事実を一体 誰が信じてくれようものか。 お昼の伊織くんの言葉を思い出す。 言いたくなった時でいいよ、か。 別に伊織くんを信用してない訳じゃ ない、それどころかきっと彼なら 信じてくれるんじゃないんだろうか。 でも、もしもそれで嫌われたら、 それを思うとどうしても言えない。 「おーい、とーまくん? 」 「え、あ、っ、何? 」 ふと伊織くんに呼びかけられて ぐるぐると回っていた思考を放棄して、 ばっ、と伊織くんの方を向いた。 すると伊織くんはつまらなそうな顔を して、僕の額をとん、と指指した。 「眉間、皺寄ってるよ~」 「えっ、!? 」 やばい、ずっと考え事してたから 変な顔になっちゃってたのかも…。 ぐいぐいと手のひらで皺を伸ばして、 焦りながら伊織くんに言う。友達と 一緒に帰ってたのにちゃんと話してくれないなんて最悪だよね。 「ごめん、考え事してた」 「それって昼休みのこと? 」 「え、まあ…」 反省しながらそう言うと、 伊織くんは ふーん、と呟いたあとに しゅん、とまるで捨てられた子犬の ように項垂れてぽつり、と言った。 「…僕の話つまんない? 」 「いやいやっ、楽しいよっ、! 」 その姿にぎゅぅっ、と心臓を掴まれて 伊織くんに必死にそう訴える。彼の、 いやこういう顔全般に僕は弱い。 「うん、知ってる~」 「え、ええ…? 」 そうにっこりと笑いながら 言った伊織くんに僕は戸惑った。 あ、これいつものやつ…。 いつも通りの嘘泣きだったのだと 気付き、僕は口をあんぐりと開けた。 もー、とかごめんごめん、とか言い合ってそのあとも雑談しながら帰っていると、もう交差点が来てしまった。 ここで伊織くんとはバイバイだ。 「あ、ばいばーい」 「うん、バイバイ」 ぶんぶん、と手を振った伊織くんに 手を振り返せば満足そうに笑った。 大きく振った腕と一緒に揺れる赤い糸 からはそっ、と目を反らした。 たたた、と遠ざかっていく背中を 何となく立ち止まって見送っていれば、 思い出したように振り替えった 伊織くんが大声で叫んだ。 「今度ゆっくり聞かせてね、 斗真くんの好・き・な・ひ・と! 」 その言葉に僕は顔を真っ赤に染めた。 僕は声を張り上げた。 「~っ、だから違うって、!! 」 もう、全く、伊織くんってば、 ずっと違うって言ってるじゃん…。 先ほど頭に浮かんだ考えを捨てる ように僕はぶんぶん、と頭を振った。 その瞬間だった、 「だぁれの好きな人って? 」 「ぅわあぁっ、!? 」 今頭に浮かべたばかりの人物の 登場に、僕は思わず悲鳴をあげた。 後ろを振り替えると、そこには やほー、と言って呑気に片手を 上げている蓮さんが立っていた。 …ってやばっ、聞かれちゃった、? 「で、誰の好きな人って? 」 口元に若干笑みを浮かべてはいるが、 いつものようなゆるい優しい雰囲気は 無くて、いつも通りのはずの蓮さんに じわじわと静かに恐怖を感じた。 「さ、さあ、?」 僕は思わず目をそらした。 数秒間の沈黙、それに耐えきれなくて 思わず蓮さんの顔を見た。 「え、っ…」 僕は思わず驚きの声をあげた。 蓮さんはもう薄ら笑いすら浮かべて なくて、もう真顔になっていた。 それも、ものすごい怒気を感じる。 あまりの蓮さんの変わりように動揺して いると、僕は蓮さんに腕を掴まれて すぐ近くの路地に連れて行かれた。 そして、両腕を掴まれたと思うと、 壁に腕を押さえつけられた。 やっぱり僕らの赤い糸は繋がっていた。 僕は恐怖で喉をひゅっ、と鳴らす。 股の間の壁を長い足で蹴られて、 所詮、股ドンという状況だ。 「れ、蓮さん…?」 恐る恐る彼の名前を呼ぶと、 前髪で隠れていた瞳がちらり、と覗く。 驚いた僕は思わず大きく目を見開いた。 一緒に居たこの数年間で見たことのない ほど、彼の瞳は鋭く、熱を孕んでいた。 それは獲物を狙う獣の瞳のように、 天から地上を睨む鷹の瞳のように、 それはぎらり、と鋭利に光った。 いつもとは違う低く掠れた声。 「…言うまで返さないから、」 ちらりと視界の隅に入ってきた 嫌になるくらいに真っ赤なその糸に 僕は目端にじわりと涙を滲ませた。
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