突然赤い糸が見えるようになりまして

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「…言うまで返さないから、」 背中が冷えていくのが分かる。 僕は目をかっ開いて目の前の人物を 見つめる。今僕の目の前に居るのは、 僕の知っている蓮さんじゃない。 ただそれだけの事実が理解できて、 肌に冷や汗が滲んでいた。 「ねえ、斗真は誰が好きなの、? 」 冷ややかな声で問いかけられた 質問に思わず泣きそうになった。 僕には好きな人なんて…居ないし、 そもそもあれは伊織くんの勘違いだ、 そうぐるぐると混乱している頭の端で あ、誰の、から誰がに変わったな、 なんて冷静に言う自分も居た。 僕はふるふる、と必死に頭を振る。 喋ったら自分の震えた情けない声が 蓮さんに聞こえてしまいそうで、 「…言って、」 そう呟くように言った蓮さんは 腕の力を少し強めた。その蓮さんの 行動に僕はここでようやく悟った。 …蓮さん、怒って、る、…? そのことに気付いた僕は、 理不尽だと思っていた恐怖が、突然 それは猛烈な不安へと変貌した。 僕は何をしでかしたのだろう、 嫌われているのだろうか。 「…ふーん、無視するんだ。」 蓮さんの言葉に僕はびくりと 肩を震わせた。やだ、嫌わないで。 そんな言葉が頭の中をぐるぐると 回った。単語のような言葉だけが 浮かんできて、頭が馬鹿になる。 何で、何故自分はこんなにも 蓮さんに執着してるんだろう…。 一瞬、そんな言葉が頭に浮かんだ。 蓮さんの鋭い瞳が僕を捉えて、 何も考えられなくなった。 「…じゃあ質問変えるよ、 斗真、お前は何を隠してるの? 」 いつもより低く掠れた、冷たい声。 ねえ、何でそんな声で話すんですか。 何で僕をそんな目で見るんですか。 ずっと目から零れそうなだった涙が ついにぽろり、と零れて、それを 境に溢れた涙はもう止まらなくて、 僕は思い切り泣いてしまった。 「…っ、ひっく、う、ぁ、っふ、」 僕の嗚咽だけが冷たい路地に響いた。 こんな顔蓮さんに見せたくない、 けど涙は一向に止まってくれないし、 声も我慢出来る気がしない。 せめてもの抵抗に顔を俯いていると、 壁に張り付けられていた腕が 突然離された。驚いて顔を上げると、 蓮さんはいつもの瞳に戻っていた。 「…ごめん、」 「っ、え、? 」 いつも通りの優しい声に驚いて 目の前の蓮さんの顔を覗き込めば、 泣きそうに顔をくしゃりと歪めていた。 いつも通りの優しさの滲み出ている 顔の蓮さんに何故か安堵と共に、 彼に触れたくなった。 「…嫉妬、してたんだ」 蓮さんがぽつりと零した言葉は 細くて、今にも切れてしまいそうで、 簡単に言っちゃいけないけれど、 可哀想、そう思った。僕は蓮さんの 頬を伝う涙を指で掬い上げる。 すると、蓮さんは顔を上げた。 視線がかちり、と交じり合って、 蓮さんの切れ長な綺麗な瞳が、 僕をしっかりと見つめる。 蓮さんは静かに、唇を動かした。 「…俺、好きなんだよ」 「うん、」 自然と頭に浮かんだ僕も、 という言葉に驚いた。…でも、 その言葉に不快感なんて一切無くて。 僕は蓮さんの次の言葉を待つ。 「俺、斗真が好き」 結びついた僕らの赤い糸のように、 自然と手と手がぎゅっ、と繋がれて、 唇と唇が結びついた。
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