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運命の人とか、赤い糸とか、
いつか本で読んだそういうのって
結局はファンタジーだ。
だって普通あり得ないじゃん。
まず科学的な根拠もないし、
実際にわたし赤い糸見えるんです、
なんて人も見たことないし…。
そう、ファンタジーなんだよ、
現実にはそんな事、あり得ない。
そんなの嘘にきまってる…のに、
「嘘、でしょ、…? 」
目の前にあるのは当たり前の光景。
あるのはいつも通りふかふかの僕の
ベッドで、周りには整理された本棚や
勉強机があって…そして、僕の手の
小指には細い真っ赤な糸がちょうちょ
結びでちょこん、と結ばれている。
僕は盛大にため息をつく。
「はあぁ、何で…? 」
おかしいとは思っていた。
昨日の夕方ぐらいからうっすらと
何やら赤色の糸がちらちら見え出して、
それは時間がたつ度にどんどん
はっきりとした物になっていった。
自分だけではなく周りの人、
全員が赤い糸を小指に結んでいて
友達に糸の事を聞いてみたりしたが、
どうやら僕以外には見えないらしい。
ああ、なんてことだ。ついに僕は
頭がおかしくなってしまったのか。
そんなことを思いながら帰宅すると
僕はそこで馬鹿らしいと捨てた仮説が
唐突に確信に変わった。
昨日は父が早く帰って来ていて、
母と一緒に何やら雑談をしていた。
そこで気付いた。父と母の赤い糸は
しっかりと繋がっていたのだ。
…そう、これは運命の赤い糸だった。
なんて、非現実的な考えを信じたく
なかった僕はどうか夢であってくれ、
頼む、ただの幻覚であってくれ…。
そうひたすら神に願いながら眠り、
そして起きた結果がこれだ…。
…もう神様なんか信じるもんか。
「もう、どうすればいいんだよこれ…」
半ば涙目でそう呟く。
一見支障はないように見えるが、
これ、実は結構問題がある。
まず精神面。
うちの両親は赤い糸で繋がっていた
から良いものの、繋がってないカップルとか見たら僕もうどうすればいいの。
次に視覚的な問題。
この糸、実は普通に触れるのだ。
とはいえ重さや感覚は無いに等しい。
長さは多分だけど、無限にのびたり、
縮んだりできるもの、だと思う。
これで普通に町に出た時目の前真っ赤でかなり辛い。しかも人波でぐちゃぐちゃになってたりしたら多分綺麗好きの
僕はめちゃくちゃ気になる。
コントロールの仕方も分からないし、
正直面倒臭いし、かなり不便。
もう一度思いっきりため息をついて、
僕はふらふら一階のリビングに下りる。全く、一体何で朝からこんな気分に
ならなきゃいけないって言うんだ。
心の中で悪態をつきながら下りると、
朝から母がご機嫌の母が朝ごはんを
用意してくれていた。
「おはよう、斗真! 」
「おはよ…、」
僕はアイロンされている制服の
シャツに袖を通す、ふと鏡を見ると
明らかに疲れた顔の自分がいた。
本日三度目のため息をついた。
洗面所からリビングに戻ると、
母が早く食べないとごはん冷めるよ、と
僕に言った。それに僕は死んだような
テンションではーい、と返事をする。
うああぁ…、もう開き直るしかない、
僕は殆ど投げやりにそう覚悟し、
無理やりテンションを上げた。
「行ってきまーす…、」
「はーい、行ってらっしゃい」
母の言葉を背中で受けながら
僕は玄関を出た。ちなみにテンションは
5分で戻った。…そりゃそうでしょ!
自分の小指に赤い糸があるんだもん!
外の空気を思いっきり吸うと
何だか少しだけ気分がマシになった。
うわあ、今でも何本か糸が見える…
学校とかこれどうなるの…。
朝から泣きそうになりながら
糸さえ無ければいつも通りの通学路を
とぼとぼと歩く。すると、後ろから
ふいに呼びかけられた。
「おはよう、斗真」
ゆったりとした雰囲気を持つ
この青年は中学高校、どちらも
同じというわりと長い付き合いである
2つ上の先輩、園田蓮さんである。
いつも通りの友人に安心しつつ、
僕は挨拶を返そうとする。
「あ、おはよーございまっ、!? 」
僕は絶句した。
あまりの衝撃に言葉が止まって
しまった。僕は頭が真っ白になった。
するとそんな僕を見た蓮さんは、
不思議そうに僕を見つめた。
「え、何どうした、? 」
「ぁ、ぅ、…ぇ、うそ、…。」
僕は思わずぽつりと呟いた。
「つな、がってる…? 」
僕の小指から伸びる赤い糸は、蓮さんの小指にしっかりと結びついていた。
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