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いつも最後でドジってしまう。
小さい頃からドジだったけど、黒魔道士になった今も変わらない。
大蛇の眠る洞窟で財宝を持ち帰るときも、尻尾を踏んで起こしてしまったし。
天空の塔でもあと一歩のところで謎解きに失敗して、地上からやりなおしだったし。
他にもたくさんある。
そして今回も。
パーティーで最終目標だった北の大地を凍てつかせる「氷の魔王」を倒し、大団円で故郷に戻るはずだったんだ。
これまでの苦労が報われたうえに、旅の始まりには思いもしなかった生活が待っているかもしれなかったんだ。
それなのに。
漂う冷気が傷ついた腕に染みる。
座り込んだまま、擦りむいてひりひりする顔をあげると、10メートルを越す巨体が仰向けになって倒れていた。
青白く輝いていた身体は、私の放った魔法の業火に焼かれ茶色に焦げ付き、ところどころ煙をたてている。
顔を落とし、魔王の放った氷の槍が背中に突き刺さり倒れているもう一体の身体を見つめた。
とどめの炎で魔王が崩れ落ち、終わったと緊張が解けた瞬間。
無防備の私を断末魔の攻撃から守った身体は、もう動かない。
眠るように目を閉じたままの頬に、手の甲で触れてみる。
ほんのりと温かい。
けれど、この温もりも氷の部屋の冷気ですぐに消えてしまうだろう。
昨夜見た彼の笑顔と声が、涙とともに浮かんでくる。
勇者が、死んでしまった。
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