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ザクッ。
再び顔を上げると、戦士のガイアが魔王の骸に剣を突き刺し、ポケットからカメラを取り出していた。
カシャ。
自分が映り込むようにして、魔王の死体を写真に撮っている。
証拠としてギルドに報告するためだろう。
「ついに、手に入れた!」
その傍らでは、道具使いのローザが魔王の腰についていた数珠の固まりをひとつずつ取り外し、地面に置いたリュックに詰め込んでいる。
冷気を永久に出し続ける氷の玉は、南国ではかなりの高値で取引されると聞いたことがある。
「ぷはっー。最高の酒じゃ」
奥の方では白魔道士のダノン爺さんが、部屋の天井から垂れ下がった氷柱を砕いては酒瓶に入れつつ、傾けては恍惚の表情を浮かべている。
私もギルドに帰れば、魔王に掛けられていた報奨金をもらえるだろう。
市井で需要の低い黒魔道士として働いていただけでは、19歳の今から死ぬまで働いても手に入らない額。
母さんと3人の弟妹が待つ故郷の実家も、これで暮らしが楽になるはずだ。
でも、今の私にはそんなことどうでもよかったんだ。
「そろそろ帰るぞ」
ガイアの声に、そうねとローザ、そうじゃのうとダノン爺さんの声が続く。
「待ってください」
氷の部屋の入口の方を向く3人に、座ったまま慌てて声をかける。
「まさか……アルを置いて帰るっていうんじゃないですよね」
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