失くした結婚指輪

2/13
前へ
/13ページ
次へ
*** (『さよなら骨董店』?)  クレアはぱちぱちと瞬きを繰り返した。  そして、顔を上に向ける。  煉瓦造りの建物。  扉には『さよなら骨董店』と書かれた看板。 (こんなお店、昨日まではなかったと思うんだけど……?)  看板の文字をまじまじと見つめたクレア。  ドアハンドルに手をかけたのは、ほんの出来心だった。  とんとんとん。  ハンドルでノックして、ドアを開けた。  大切に扱われてきただろう古いもののにおいが外まで届く。   クレアは、恐る恐る店内へ足を踏み入れた。 「わぁ……」  いくつかの花の形のランプがほのかに店内を照らしている、薄暗い空間。  骨董店というだけあってアンティークが所狭しと並べられている。  ガラス玉の瞳が輝く少女の人形。  童話をモチーフにした陶器製の置物。  仕切られたケースには、キャンディーのようなボタン。  薬品棚には鮮やかな色の瓶が並んでいる。  そして、振り子時計は静かに時を刻んでいた。 (こういうお店には初めて入ったけど、わくわくする。宝箱のなかに入り込んだみたい)  ふと、宝石で縁取られた大きな鏡に、クレアの顔が映った。  艶の失われかけた金髪は、適当にひとつに束ねている。  翠色の瞳の下には濃いクマ。  手入れをしていない肌を再確認して、眉尻が下がった。 (……最近余裕がなさすぎたからかもしれない、けれど……)  溜め息を吐き出して、棚の上のガラス製万年筆を手に取ったときだった。 「いらっしゃいませ」  
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加