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***
(『さよなら骨董店』?)
クレアはぱちぱちと瞬きを繰り返した。
そして、顔を上に向ける。
煉瓦造りの建物。
扉には『さよなら骨董店』と書かれた看板。
(こんなお店、昨日まではなかったと思うんだけど……?)
看板の文字をまじまじと見つめたクレア。
ドアハンドルに手をかけたのは、ほんの出来心だった。
とんとんとん。
ハンドルでノックして、ドアを開けた。
大切に扱われてきただろう古いもののにおいが外まで届く。
クレアは、恐る恐る店内へ足を踏み入れた。
「わぁ……」
いくつかの花の形のランプがほのかに店内を照らしている、薄暗い空間。
骨董店というだけあってアンティークが所狭しと並べられている。
ガラス玉の瞳が輝く少女の人形。
童話をモチーフにした陶器製の置物。
仕切られたケースには、キャンディーのようなボタン。
薬品棚には鮮やかな色の瓶が並んでいる。
そして、振り子時計は静かに時を刻んでいた。
(こういうお店には初めて入ったけど、わくわくする。宝箱のなかに入り込んだみたい)
ふと、宝石で縁取られた大きな鏡に、クレアの顔が映った。
艶の失われかけた金髪は、適当にひとつに束ねている。
翠色の瞳の下には濃いクマ。
手入れをしていない肌を再確認して、眉尻が下がった。
(……最近余裕がなさすぎたからかもしれない、けれど……)
溜め息を吐き出して、棚の上のガラス製万年筆を手に取ったときだった。
「いらっしゃいませ」
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