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第一話 congrats
「おめでとうございます!」
恐らく完全な出来レースだと後に言われるだろうが、私は気にしない。
美少女コンテスト。
自分はそこそこ可愛らしい顔つきをしているが、グランプリを勝ち取るほどではないということは承知している。
「ありがとうございます」
四方八方からのマイクの前で、左右には歴代の受賞者である先輩たちが立ち、グランプリのタスキをかけられ、盾を持たされた私は精一杯謙遜した声でそう言った。
「ご両親にはどのように報告されますか?」
大御所俳優である父と母のことだ。
「はい、精一杯がんばりましたと伝えたいです」
胸の内では強力なコネをサンキュー!と思っている。
「将来はどのような道に進みたいですか?」
インタビュアーたちは私の家族のことを聞きたくてうずうずしているようにみえるが、両隣にいる先輩たちの名前をあげて、彼女たちのようなモデルや舞台俳優になりたいと言っておいた。
本当は母のような女優にもなりたいし、姉のように歌手活動もしてみたい。
あわよくば父のようにバラエティにも呼ばれるような俳優にもなりたいと思っている。
「自信はありましたか?」
八百長ですよね?と顔に書いてあるインタビュアーがそう質問してくるので、いいえ、全くと否定した。
「水着審査が特に自信がなくて、とても恥ずかしかったです・・」
私は胸が平らでお尻が大きいのだが、正直特にコンプレックスには思っていない。
上半身は華奢に見えるし、お尻はセクシーだと思う。
もじもじしていると、両隣の先輩たちがフォローに回ってくれる。
「私は花澤さんを見た瞬間から彼女しかいないと思いました」
私を覗き込んで微笑んでくれたこの人は枕営業をしていることが有名な女優だ。
そのことを非難する人間もたくさんいるが、私は彼女が頑張って今の地位に上り詰めたのだから、単純にスゴイなと思っている。
「私にも美玲ちゃんの欠点が見当たりません。中学生なのに存在感がすごいと思います」
左右の先輩たちにお辞儀をすると、ありがとうございます!とはきはきと言った。
「あんたいい加減爪噛む癖止めたほうがいいわよ」
ノーメイクでソファに横たわっている姉が言う。
「ご忠告ありがとう」
携帯から目を離さずに爪を噛み続けて生返事をする。
「普通さあ、姉妹が芸能人だったらそこにも触れない?」
私の受賞時の映像を何度も見てぷりぷりと姉が怒る。
居間という同じ空間にはいるがテレビに背を向けてダイニングに腰を下ろしている私は触れてたよと言った。
「お姉ちゃんのこともめっちゃ質問してきて、散々答えたのにどこの局も使ってないんだもん」
背後からそれはあんたがつまらない返答をするからだと姉がぶつぶつ言うのが聞こえてきた。
「お姉ちゃんさあ、文句言う前におめでとうぐらい言えないの?」
口では負けていない私に蔑んだ笑いをすると、
「おめでとう、これからは自分の力で生きていく方法を見つけるのね」
と吐き捨て、姉は自分の部屋へと戻っていった。
「ありがとう・・」
私だってそのつもりだよ、と心の中で思った。
家族の支えなしで、これからは生き残っていかなければならない。
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