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「いやー、まさかミヤが自宅でネイルサロンとはねー」
部屋の内装をゆったり見回して、カオリが沁々と唸る。
「まだまだ駆け出しだけどね」
顔の向きはころころと変えても器用に手だけは動かさずにいる彼女の爪に、ラベンダー色のジェルを塗りながら答えると、
「あたしはまだまだ賃貸っすよ」
と笑い飛ばした。高校の頃と変わらず八重歯の覗く口元に、安堵にも似た懐かしさを感じる。
去年まで雑居ビルの小さな店で働いていた自分が、一軒家の一室でサロンをやれているなんて我ながら嘘みたいだ。
郊外で1人でやっている店だし規模も小さいけれど、リピーターさんが増えてきたお陰で何とかなっている。
唯一無二の親友であるカオリを、本当は最初のお客さんとして招きたかったけれど、営業職で出張の多い彼女に『休みの日にでも来て』と言ったら1年経ってしまったのだった。
それでも、やっぱり嬉しい。都合をつけて来てくれたのも、普段ネイルなんてしないのも、手を見ればわかった。
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