3.露天風呂

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3.露天風呂

 今回の修学旅行の行先は、長野県のとある温泉のあるスキー場で、2泊3日の予定だ。周りが雪山しかないので、子どもらがよそに遊びに行く心配もないから、学校側とすれば子ども達を管理しやすい場所だった。  羽田空港に着いた後はずっとバス移動ということだった。羽田を出て30分ほどで昼食となり、その後は高速に乗り移動だ。途中のサービスエリアで2回休憩があり、アリスはレイラと行動を共にしてお土産なども見て回った。  レイラはこんな楽しいことは生まれて初めてだったので、普段よりもたくさんお喋りをした。  クラス委員長がアリスだったせいか、身障者への正しい知識を知らず知らずのうちにみんなが身に付け、それを行ってもくれたため、担任の(アララギ)六花(リッカ)は嬉しく思い、またアリスに感謝もしていた。  スキー場に到着したのは、午後4時頃になっていたため、その日のスキーはできない。  クラスの部屋割りは、レイラとアリスがツインベッドのあるワンルームの部屋の他は、大部屋となっていた。レイラの車椅子が入れないためだろう。学校側も少しは考えてくれたな、とアリスは思った。  後で知ったことだが、これはレイラの母が手配してくれたということだった。  夕食まで2時間ほどあったので、先生から、 「皆で露天風呂に行きましょう」 という話が出、露天風呂に行くことになった。  部屋でアリスは、 「レイラも行くでしょ?」 とレイラに聞いたがレイラは少し考えて、 「ああ、アリス、私いいや。みんなと行ってきてよ」 と言い出した。  レイラはこの足を人に見せるのが嫌だったこともあったが、お風呂の中では車椅子が使えないので、移動に迷惑をかけると思ったのが主な原因だった。アリスは、 「レイラのバーカ。私が何も考えないと思うの?お風呂の中では私がおぶってあげるよ。何遠慮してんのよ」 図星を突かれたレイラは、 「だって、裸だよ?」 「それが何だってのよ。イヤならバスタオルでも巻いときなさいよ」  そこまで言われてレイラは、もう全てをアリスに任せようと考えを改めた。 「わかったわ。アリスが可愛そうだから、一緒に入ったげる」 と口では言いながらも、レイラは嬉しくて心の中で感謝した。(ありがとう。アリス)と。 「ううん、いいのよ、レイラ」 「え?!私が今考えたこと、わかったの?アリス?」 「うん、ある程度ね。私、実は色んな動物の声が聞こえるのよ?最近になって、人の考えも少しだけどわかりだしたわ」 「それってスゴくない?」 「猫となら会話もできるよ?私。でもレイラの未来予知には負けるよ、アハハ…あ、早くお風呂行こ」 「ウン!」  二人は急いで露天風呂に向かった。レイラにとっては生まれて初めての温泉だったし、アリスやクラスメートと一緒に入るお風呂は楽しく、格別なものだった。おそらく一生忘れることのできない思い出となるだろう。  お風呂を出て食事の後、部屋に戻ったアリスとレイラは、のんびり話ができるな…と思っていたら甘かった!クラスメートの女子達がレイラと話したくて全員押し掛けてきたためだ。  全員入ると狭かったが、その部屋でトランプやゲームを皆で夜遅くまでして楽しんだ。  すると、夜10時ごろに先生2名がアリス達の部屋にやってきてこう言った。 「消灯前に女子の大部屋に行ったら、だ~れもいなかったので、全員でまたお風呂に行ったかと思って探しましたよ…。でもここにいて良かったです。さあさあ、自分の部屋に戻りなさーい!」  先生のこの一言で皆一斉に部屋を出て行き、アリス達の部屋に静寂が戻った…。  レイラは今まで事故やイジメに遭ったりしたことがずっと辛くて、悲しい思い出として残ると思っていたが、アリスと出会った後の奇麗な思い出が、前の辛い思い出を洗い流しているように感じた。  
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