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6.警務部長
ある日の午後、ISDのホットラインが鳴った。佐々木咲夜がすぐに出て応対している…。咲夜からは何もジェスチャーがないので、急な出動ではないな、と室長は思った。
「室長」
電話を切った咲夜は言った。
「警務部長がお呼びです。レイさんとすぐに来てほしいとのことです」
「わ…わかった…」
オレはレイと歩きながら自問自答してみた…。最近何か悪いことをしたかな…。あ、平凛と浮気をしたことかな…。他に心当たりはない。しかし、なんでバレたんだ?しかもレイまで呼ばれるって…。他には何も心当たりのない室長だった。
「あなた、なにかやったの?」
「ぇ?イ…ぃゃぁ、ト…特に覚えがないゾ…何ダロなぁ…アハハ」
「怪しいわね…まぁ、行けばわかるわ。平凛さんでもいるんじゃないでしょうね?」
「え?ヒ…平凛が?まさか、あり得ないよ…」
平凛が警察本部まで泣きついてくるなんて、そんなバカな話は絶対にない。平凛はわきまえてる女だから、事を大げさにするはずはなかった。
そんな事を考えていたら、もう警務部長の部屋に着いた。本部は近いな…。
(コンコン)とノックをし、
「ISDの岡野です。呼ばれて参りました」
と言ってからドアを開けた。
そこでオレが見たものは…
目の前に、平凛がいた…
「え?!平凛?何やってんだオマエ?こんな所で?」
「君!失礼だぞ!警務部長に向かって!」
「へっ!?」
オレは思考が追い付いて行かず、久しぶりにマヌケな声を出してしまった。
「こちらの方が新しく着任された、神宮寺警務部長だ」
「へっ?へっ?!」
今度は2度も言いながら、人差し指まで向けてしまった。
「アラ、平凛さん、お久しぶりですぅ」
レイはどういう状況か知ってか知らずか、普通の挨拶をしていた。
「神宮寺平凛と申します。今回高知県警の警務部長を拝命致しました。どうかよろしくお願い致します」
「え?平凛さん、警務部長なんですか?まぁ、良かったですぅ。おめでとうございます」
レイはまたしても普通に話してやがる…。
「そ…そうでしたか。大変失礼いたしました。ISD室長の岡野です。よろしくお願いします」
そう言うと、平凛は、
「岡野さん、ちょっとこちらへ…」
と言って扉を奥に入った隣の部屋に招き入れられた。
そこでは警務部長の顔ではなく、いつもの平凛の顔になっていて、オレは平凛に抱きしめられ、熱烈なキスの嵐を受けた。オレも平凛に会うのは久しぶりだったから、思い切り抱きしめていた…。
2~3分もそうしていたろうか、もっとだったかも知れない。オレ達は体を離し、平凛はオレの口の周りをティッシュで拭きながら、
「お久しぶりでございます。ダンナ様」
と言った。
「ぉ、おお、何で知らせてくれなかったんだ?ビックリしたよ」
「ウフフ…ダンナ様を脅かしたくなったんです…」
と言いながらもう一度ハグをしてきた。
今度は1分ほどで体を離し、オレからティッシュを受け取った瞬間、平凛は元の警務部長の顔に戻り、ドアを開けて最初の部屋に入って行ったので、オレも続いた。レイの目が、「ピカッ」っと光った気がした…。
ISDへの帰り道、レイが、
「平凛さんいつの間にか偉くなってたのね」
「オレもびっくりしたさ。東京の官庁にいたというのは、警察庁のことだったんだな」
「やっぱり頭のいい人は違うわね。若いし奇麗だし、いいなー…私も二十歳のころに戻りたいなー…」
「そうだな。レイが二十歳でもオレは三十かよ…」
「あれ?あなた、ほっぺに口紅がついてるわよ?」
「え?!マジで?」
オレはとっさに反対を向き、手のひらでゴシゴシこすった…すると、
「ウソよ…。やっぱりそういう仲だったんだ…」
レイはオレの肩をつかみ引っ張って正面を向かせておいて、
「憎らしーー!」
と言いながら、オレの両方のほっぺを思い切りつねった。
「イテテテテテ…!ヤメレ~~!」
渚の街のモノクローム第2期 「アリス」⓻ [富士の上空(うえ)の誓い]終
あとがきは次のページです。
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