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「確かに、まだまだだな」
「はい…すいません」
意気込みが凄かった分、落ち込みが半端ない。そんな僕に気付いたのか朝陽は僕の名前を呼び腰をポンと叩いた。
「お客様の中には、マシンガンの様に話しかけてくる方もいる。俺みたいに意地悪してくる客もいるかもしれない。何を言われても堂々と、心で動揺しても涼しい顔で交わせ」
「え?意地悪って」
「ほんの1秒2秒で味が変わるわけがないだろう。動揺させたらどうなるか試しただけだ。相変わらず純粋な奴だな」
「も…もうっ!朝陽」
でも、彼が言うことは事実だ。
例え美味しいコーヒーを淹れたとしても所作が綺麗でなくては味は落ちてしまう。料理だってそう。それほど作る見た目も大事だということ。
朝陽は意地悪じゃない……朝陽はいい人で僕に大切なことを教えようとしてくれてる。
「……朝陽はいい人だよ。みんな言ってる」
朝陽は「え?俺がいい人??」と怪訝な顔になる。未だに彼はいい人呼ばわりされるのが嫌いみたいだ。
「みんなって誰だ」
「うららさんも翔さんも純一郎さんも蔵之介さんだって”朝陽はいい人”だって言ってる。僕が初めてこの店に来た時も”朝陽はいい人”の論議ばかり、僕は信じられなかったけど……あなたを知れば、本当にそうだと思った」
「何を言われたんだ?」
「…それは内緒。……さっ、早く。僕の春色ブレンド飲んで評価して」
「あ…ああ」
朝陽は我に返ったようにカップの持ち手に触れ、くるりと回して持ち上げた。
「もう。あいつら、一体何を響に吹き込んだんだよ……」
不満そうな表情で唇をカップに近づける。目を閉じクンと香りを嗅ぐと朝陽の目尻は下がり口元はゆっくりと上がっていった。
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