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「おおき にいに。はいっ!」
「なに?俺に人形くれるの?」
「ちがっ!なでなで」
「夏帆は、どうして俺を兄だと解ったんだ?」
ひとしきり僕と夏帆を抱きしめてくれた朝陽は、不思議そうに首を傾げながら、夏帆から差し出された人形を取り頭を撫でていた。
僕が何も伝えていなかったから、彼が不思議がるのは当たり前だ。
夏帆に朝陽の顔を覚えさせていることは言わないで欲しいと母に言われていた。母としては、朝陽を喜ばせい気持ちがある反面、余計なことをしてと言われ気まずくなるのを恐れたんだろう。僕が教えたことにしたいらしい。
朝陽との関係を繋げたいのに素直になれない母、でも、僕は嘘をつけなかった。こういう小さな努力の積み重ねを朝陽は否定しないと思うからだ。朝陽はきっと母の努力を解ってくれる。
「毎日、母が朝陽の写真を夏帆に見せて”大きい にいには朝陽”って教えたんだ。ねっ、お母さん」
「あ…ええ」
僕の後ろに隠れるように立っていた母が小さな声で返事した。そんな母に夏帆が駆け寄って手をグイグイ引っ張り朝陽の元へ連れて行ってる。
「まま!おおき にいに だっこ!きゃっきゃっ」
「え?抱っこって…夏帆、それは駄目よ。私は朝陽さんから嫌われて……」
「…夏帆」
朝陽は苦笑しながらも顔をこわばらせていた。
夏帆は大人の事情なんて分からない。ただ、さっきの抱っこが楽しく続きをして欲しいだけだ。
どうしようと思った。このまま夏帆の元へ行き抱き上げ、違う遊びで誤魔化そうか……頭の中は混乱する。僕はどうするべきかと。
「夏帆……こっちに来なさい」
だが、朝陽は腰を落とすとやってきた夏帆の両肩を掴み自分に向かせた。
「夏帆、俺と君のママは家族ではないんだ。だから、抱っこは出来ない」
抱っこは出来ないという意味が解ったのか夏帆は頬を膨らませ「や!」と頭を振っている。
やっぱり、朝陽と母の雪解けはないのだと思った。
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