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朝陽の中の母への恨みは根深いんだ。
母もそう感じたのだろう「夏帆、駄目なのは駄目、我儘は言わないの」と声を掛けている。そんな母を朝陽は見上げた。
「でも、夏帆。俺も家族になれるように努力する。この人が俺を家族の一員だと夏帆に覚えさせてくれた努力を無駄にしない様頑張るよ。俺らが本当に家族になったら、その時は夏帆と一緒に抱っこするから、今は、これで我慢して欲しい」
「朝陽……」
小さな子供に理解させる大変さを朝陽は解ってくれた。
朝陽は夏帆を抱っこすると母の元へと歩いてゆく。驚き後ろに下がる母の右手を握り、ゆっくり上下に振ると「夏帆に俺の事を教えて下さってありがとうございました」と言った。
「朝陽さん。私こそ、ありがとう…。これまであなたを苦しめて ごめんなさい!」
「ちょ…」
母は握られた手を反対の手でしっかり包み泣き始めた。子供のように何度も何度もしゃくり上げる母に朝陽は動揺している。対処が分からずオロオロとしていて―――。
夏帆を挟んだそんなふたりが、なんだか微笑ましい。
そんな不器用な空気が、生まれたての家族の様に僕は思えた。
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