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夏帆がいなくなると嵐が去った後の様にCafé Fleuri の店内は静かになった。
「朝陽…ありがとう。母も嬉しそうだった」
「ああ。夏帆も産まれたし、響に気まずい思いもさせたくはないからな。いいきっかけだった」
木製のコーヒーミルを朝陽の前に置く。お客様として座った彼に僕はいつものように説明をしてゆく。
「Café Fleuri のコーヒーは、朝一番に焙煎した炒りたての豆を使っています。お客様自身で珈琲豆を入れミルを回しながら、芳しい風味をご堪能下さい」
「なるほど…客に豆から入れさせることにしたんだな」
「はい。その方がワクワクするかと思って提案したんです」
桜色の桜の形をした磁器の器に入ったブレンド豆に朝陽は鼻を寄せクンと匂う。香った瞬間目尻が少し下がるのは、彼がいいと思った証拠だ。
彼がミルで豆を砕いている間、テーブルを離れ豆と対話してもらう。
静けさに包まれる店内。
豆が潰される音と共に、珈琲豆の芳しい香りが店内に広がった。
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