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「Café Fleuri は、パティシエになった僕を成長させてくれてる。コーヒーについてはまだまだ勉強中で……だけど、自分で納得した物だけを提供してるつもりだよ」
「ん。そうか」
高い窓から射しこむ柔らかな木漏れ日が僕らを包んでいた。目を合わせる度ゆっくりと頷いてくれる朝陽の優しいオーラに僕はとろけそうになっていて。
「……ああ。これからはこんな風にずっと朝陽と過ごせるんだね。幸せ過ぎる」
心までが大らかになって、僕はまだ先だと思っていたマイスターへの道を思わず口に出してしまった。
「Café Fleuri に来て、あなたに出会えて僕の人生は変わった。僕もお客様にここに来て人生が変わったって思われるような珈琲マイスターになりたい」
「響、マイスターの試験を受けるのか?」
「あ…遠い将来出来れば取りたいなって。ようやくひとりで焙煎が出来るようになったばかりだし、勉強だってこれから……」
粉がシュワシュワと泡になりコポコポと珈琲がしたたっていく。とてももどかしい時間。僕が焙煎した美味しい春色ブレンドを早く朝陽に飲ませたいと心が逸ってる。
「そうか、豆に関しても丁寧に勉強してるようだし、遠い将来とは言わずに俺は受けてもいいと思う。いずれは、俺が持ってる資格 アズバンスド コーヒーマイスターを目指してみるのもいいな」
「アドバンスド?」
「大都市圏でも100人ほどしかいないコーヒーマイスターだ」
「ええっ!そんな、無理無理無理…!!」
動揺してしまった。今でもマイスターにもなれるか分からない状態なのにランク上だなんて考えられない。
「響、珈琲が出来てるぞ。出来上がったらすぐに提供すること、味は一刻と変わるんだ。話していたから遅れましたというのは理由にならないぞ」
あまりにも動揺して手が止まっていたらしい。朝陽の叱りに「ごめんなさい!」と言いながら、おたおたとコーヒーカップへと移し朝陽の元へと差し出した。
最後の最後にヘマをしてしまった。美味しい春色ブレンドを朝陽に飲んでもらいたかったのに、情けない。
「最悪だ……最高の春色ブレンド飲ませたかったのに」
悔しさに手が震える。そんな僕の姿を見ながら朝陽は穏やかな笑みを見せた。
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