224人が本棚に入れています
本棚に追加
意識し過ぎかもしれないけど、僕たちの間に恋人同士のような空気が流れた。
もちろん、恋人なんていた経験がないから、何となくの想像の域だ。恋愛ドラマだって、こんなじゃれ合いからふわふわっとした甘い空気に変わってゆく。でも、同時に冷静に分析している自分もいて
彼は女性が好きなんだから、男の僕なんて受け入れてはくれない――と現実に戻した。
「ほら、家についたから……入って。残りは、おじさんおばさんと食べて」
男女分け隔てない人懐っこさは、反則だ。最近はよく僕にこんなことをしてきて、こうやって顔を見れなくさせる。一歩下がり、博人からのスキンシップを逃れると、お菓子箱を胸に押し付けた。
「ごめん。響、怒った?」
「すごく、怒ってる。僕は、モカじゃないし。それも彼女は女の子だ」
「ごめんごめん、モカは俺の誉め言葉なんだよ。響、許せ」
ドキッとさせられたせいとは言えず、モカのせいにしてはぐらかした。緩んでいた顔の筋肉を引き締める。顔を上げると、「冗談!」と言ってあっかんベーして見せた。
「こ、こらっ!響。やったな」
「ちょ。や、止めろよ。博人…っ!」
余計なことをしたと思ったが遅すぎた。
肩に腕が回され、引き寄せられる。頬に博人の頬が当たると、その男らしい骨ばった感触に、せっかく落ち着こうとした心臓が壊れたように動き出す……。
博人といると幸せで楽しいけど
好き過ぎて……
自分が男だということが、とても、虚しくなる―――。
最初のコメントを投稿しよう!