気分上々

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 ああ、もうだめだ。この世は終わりだ。  さっきから俺は大きなため息ばかりついている。その理由は単純だけど胸中は複雑だ。  今日、俺はフラれた、かもしれない。つまりハートブレイク中なのだ。  同じクラスに好きな子がいる。ナミって名前なんだけど、まだその子のことを名前で呼んだことはない。いつも「ねえ、ちょっと」とか「あのさ」とかいって話しかける。もったいつけた感じで話しかけるわりにたいした話はしない。それでも、その子は俺のつまらない冗談をいつも笑って聞いてくれる、笑顔が素敵なかわいい子だ。だけど今日よっぽどつまんなかったのかニコリともしなかった。  悲しすぎる。 「ヒロシ。なに、さっきからため息ついてるのよ」  母さんがあきれたような顔をして俺のことを見ている。 「おにいちゃん、いらないのならちょうだい」  晩ごはんの食卓でいつものようにバカみたいにごはんを食べる妹が俺の好物のトンカツに箸を伸ばす。ふだんの俺なら全力で阻止する。だけど今日の俺は違う。  食欲はあるのに食べたくない。 「ぜんぶ、やるよ」  俺はため息をつきながら妹に皿を突き出す。 「わ、サンキュー」  俺の気も知らず、平気な顔でトンカツを奪い去る妹にむかつく。なんちゅうやつだ。やっぱ小学二年生に思春期まっ只中の中学二年男子のこの気持ち、わかんないよな。  晩ごはんもそこそこに布団にもぐりこんだ。  俺のことを心配したのか、仕事から帰った親父が仕事着のまま部屋に入ってきた。 「おいヒロシ、どうした。失恋でもしたのか」  ずばり図星だ。そういう空気を出していたのだろうか。 「ち、ちげえよ」  全力で否定したはずなのに声はやっぱり弱々しかった。自分でも思う。まるで病人だ。 「まあ、恋の病っていうぐらいだからな。がんばれ、ファイト」 「だから、ちがうっていってるだろ」  ふだんはズボラで家にいるときは酒ばかり飲んで横になっているのに、こういうことだけは勘が働くらしい。親父は意外に鋭い。  どんよりとした思いを抱えて何度も寝返りを打っていると寝ていた。
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