1 あちらの国の王子さま

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1 あちらの国の王子さま

 むかしむかし、あるところに小さな王子さまがいました。  珠のように可愛らしい黒髪の王子さまです。  王子さまの肌は白く、瞳は地上の明け方の夜空を映したような深い藍色をしていました。  王子さまの国は、人間界の果ての「三途の河」を渡ったところにあります。河の向こうの、長いトンネルを抜けた先にあるのです。  そこは死んだ人間たちの魂の集められる場所――つまり、黄泉(よみ)と呼ばれる地底の世界。  王子さまは、人間たちが「死者の国」と呼んで忌み嫌っている、あちら(ヽヽヽ)の国の王子さまなのです。  生きている人間はまだ誰ひとりとして、その国へ行ったことがありません。  ニンゲンは誰しも、自分の知らない物事を怖がったり、避けたり嫌ったりするものです。だから王子さまの生まれたその国が、たいそう人間たちに怖がられ、不吉に思われていたのも無理はありませんよね。  でも人間は、死んだら誰もが魂になってその国へ行くのです。たいへん身近な場所だというのに、その死者の国はいつまでも生きた人間たちにくわしく知られることはなく、よって小さな王子さまの存在も、人間たちにはちっとも周知されることはありませんでした。
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