2 この国ができたころのこと

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 ティアーナさまは、都が発展してゆくのとは反対に、お体の具合を悪くされることが増えました。  神さまは、ご病気になることもあるのです。  冥王さまは、妃神さまを何よりも慈しみ、いつも尊敬し、この上なく深く愛されました。けれども日に日に女神さまの具合は悪くなってゆくのです。  女神さまの御病気は、おいしいものを食べても治りません。  やはり、お日さまの光が浴びられないからでしょうか?  光に属する神さまは、地底世界では生きられないのでしょうか。  でもティアーナさまは、天上界に帰りたいとは一言もおっしゃいませんでした。  冥王さまとの赤ちゃんをお腹に宿していたのですから。  冥王さまは、王妃さまを元気づけようと、できるかぎりそばに寄り添い、いろいろなお話をしました。子どもの名前のこととか、子どもが生まれたらどんなことをしたいかとか。  けれど看病のかいはなく、女神さまはとうとう最後の気力をふりしぼって赤子をお産みになると、冥王さまに優しく手を握られたまま、身罷られました。  その尊い魂は今は、創世神さまのところへ還られて、より高い次元の神さまになられたことでしょう。  冥王さまは、たったひとりの同じ神族である女神さまを亡くし、また孤独に打ちのめされかけました。  けれど、妃神さまが遺した赤ちゃんをよく見てください。  艶々とした黒髪の、それはそれは可愛らしい男の子でした。  おまけに、なんてことでしょう。  これまでは闇の神さまにだけ従っていた闇の精霊たちと死の精霊たちが、王子さまの周りをふわふわと回って、そのほっぺに次々と口づけをするのです。  冥界に住む精霊たちが自分以外にじゃれつくところを、冥王さまは見たことがありませんでした。  精霊たちはうたい、踊りました。 『誕生おめでとう、王子さま。  世継の御子神さま、ご誕生おめでとう』  高位の神さまのみが、二種類の精霊を従えることができます。 (ほとんどの神さまは、一種類の精霊だけを配下にします。)  冥王さまはこの子が小さいながら自分の神司(ちから)を受け継ぐ後継神だと気づきました。  ティアーナ女神さまは、孤独な冥王さまのために、彼と全く同じ闇の(ヽヽ)属性をもつ神さまを産み遺していってくださったのです。まるでご自身の命とひきかえるようにして……。  冥王さまはお世継ぎとなる同族を得たよろこびと、お妃を失った悲しみで涙を流しながら、まだ目も開かない王子さまに、贈り物をなさいました。配下の半分にあたる死の精霊たちを、このときほぼぜんぶ譲りました。おそらくご自分がはじめから持っていた『死』という司は、この子に譲るために天から与えられたのだろう、と感じたからです。  この瞬間から、死の精霊たちは王子さまの配下となり、王子さまは幼くして冥王さまの死の司(神力)を継ぎました。  でもそのころまだ赤ちゃんだった王子さまは、自分が冥界の精霊たちの約半分を譲られ冥王さまの後継神になったとも知らず、かわいいおててをぎゅっと握って、侍女たちに着せられた産衣(うぶぎ)の中で、すやすやと眠っていました。
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