2 この国ができたころのこと

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 これが、王子さまのお生まれです。  ティアーナ妃神さまから譲られたものは、命と、明け方の夜空の色をしたその瞳だけ。  あとは、冥王さまをそのまま小さくしたようなお姿です。  でも、冥王さまが内心に抱えておられる故郷をなつかしいと思う気持ちや、孤独といった感情は、王子さまにはありません。だって王子さまはまだ物心がついたばかりで、仲間に捨てられたりふるさとを去ったり、愛する方と涙ながらのお別れをしたことはないのですから。  王子さまは天真爛漫に日々、いたずらをしたり、かくれんぼをしたりと周囲の魔族たちをてんやわんやさせつつ、お父さまと幸せに暮らしていました。  王子さまにとってお父さまが唯一の家族であるのと同じく、お父さまにとっても、王子さまは寂しさをいやしてくれる唯一の大切な家族なのです。  時々、お父さまが、お母さまのことを思い出して目を潤ませようとすると、王子さまはそれをさせないかのように、いつもいたずらを思いついて実行するのです。そうすると王宮じゅうが混乱して、冥王さまは大抵われに返り「なんのさわぎだ?」としもべの魔族たちに聞かざるを得なくなります。  王子さまの起こした騒動だと分かると、冥王さまはため息をついて侍女たちとともに王子さまを探し回りました。たいていは精霊たちが居場所を知らせてくれるので(子どもの神さまは、お付きの精霊をまだじょうずに散らせないのでかくれんぼは無理です。親神が探しやすいようになっているのです)、王子さまはどこへ隠れてもすぐに居所がばれて、高い位置から首根っこをむんずと掴まれてしまいます。  吊り上げられた王子さまは反省のしるしに冥王さまの首すじに抱きついて、ほっぺにキスをします。王妃さまゆずりの深い青の瞳をキラキラさせて屈託なく笑うようすに、冥王さまはいつしか過去の悲しみのことなど忘れて、お小言も何となく引っこんでしまい、困った苦笑いはほんものの笑顔になっていくのでした。
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