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ヴァニオンは草むらの中に身を伏せて隠れていました。茶色っぽい黒髪は耳より上でさっぱりと刈り上げられ、前髪だけがふわふわ揺れて、いかにもやんちゃそうな子どもです。かれは王子さまを見上げてニィッと笑顔を見せました。王子さまも、やっと笑顔になりました。
「へへへ。ナシェル、いっしょに来いよ。俺たちも探検して遊ぼう」
「うん!」
王子さまは騎士たちからかくれるため、ヴァニオンと同じように草むらに身を伏せました。スリルでどきどきと胸がはずみます。ふたりは天幕から離れて、より木々が生い茂っていて隠れやすいしげみのほうへ行きました。
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騎士たちに気づかれないように、しげみの深いほうへと移動するうち、二人はいつしか森の中に入り込んでいました。
鬱蒼として、おどろおどろしい雰囲気の森です。遠くで梟の鳴き声がしています。けれど魔族のヴァニオン少年はへっちゃらです。むろん王子さまだって、暗いところは平気です。夜目も効きますし、万が一あぶない場所でも、精霊たちがきっと危険を知らせてくれます。それなのにお父さまときたら、王子さまにちょっと過保護すぎますよね…。
「知ってるか? この森、生き物を食べる花があるんだって」
「えぇ〜それ、本当?」
言いながら王子さまは思い出しました。冥王さまや周りの家臣たちから「森には絶対に近づかないように」と言われていたのです。気づいたころには、もうすっかり入ってしまっていましたけれど。
「生き物を食べる花じゃなくて、言葉をしゃべる花があるって、読んだことがあるよ」
「えーオレは、食べる花って聞いていたけどなぁ?」
「じゃあどっちの話が本当か、確かめに行こうよ!」
王子さまは森の奥を指さしました。図鑑でしか見たことのない花を見つけてみたかったのです。お父さまも狩りで楽しんでおられるのですし、ちょっとぐらい探検しても、いいですよね?
二人は森の奥に向かってどんどん歩いて行きました。
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