1 あちらの国の王子さま

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 小さな王子さまのお生まれについて話しましょう。  小さな王子さまには、お父さまがいます。  家族はお父さまだけです。  お母さまはいません。お母さまは、王子さまが生まれるとすぐ、具合を悪くしてこの世を去ってしまわれたからです。  お父さまは、冥王さまと呼ばれています。世界がまだ生まれたてだったころ、人間界の上にある『天上界』にいた神さまだったそうです。  お父さまは、闇と死と混沌を司る神さまでした。ですから天上界の兄弟神たちからは疎まれていて、昔にひとりぽっちでこの地底の死者の国に降りてきたそうです。  天上界の神さまたちって、生命力にあふれていて、キラキラと光り輝くものが好きですからね。お父さまの『闇』そして『死』という神力を忌み嫌い、すばらしい絹の黒髪までもを気味悪がって、のけものにしていたそうです。  でも王子さまは、そんなことはよく分かりません。王子さまはお父さまが大好きです。お父さまがどれだけ思慮深い、よい神さまか、わかっています。  冥王さまはたいへん背が高く、背すじがしゃんとして、美しく、厳しく、気高く、優しくて、おまけにとても強い、ご立派な神さまです。  小さな王子さまが世間のものごとを、時には失敗しながら少しずつ学んでいくように、お父さまもまた、どう子どもを導けばいいか考え、回り道を繰り返しながら、王子さまと一緒に日々成長しているのです。さすがにもう背は伸びませんけど、親としてね。  王子さまはこれから成長期を迎えます。このころはまだ小さな子どもですが、すっかり成長しきるまでにはいろいろなできごとがありました。 (そのいろいろなできごとについては、また別のお話の中で語ることにいたします)  ここでは王子さまがまだ本当に小さかったころのお話をいたします。
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