2 この国ができたころのこと

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 その強そうな若者…こと闇の神さまは、しばらくひとりぼっちで地底世界をさまよいました。同族たちにあんなふうに追いだされたことが、なかなか忘れられなかったのです。  それは明らかに悲しみという感情でしたが、かれはその気持ちにふたをして、もう会えないきょうだいたちをいつまでも思い浮かべていました。  なにせ同じ身分の神さまはここにはひとりも居ませんし、魔族たちのことは全然よく分からないし、魔獣たちのことなどなおさらよく分かりません。地上界からも死んだ人間たちのたましいが続々とやってきますが、誰にも教わっていないので、それらをどう(さば)けばよいのかも分かりませんでした。  天上まで続くと言われている大火山の火口から、上昇気流にのって天に帰ろうかなとも思いました。分からないことだらけで、ただ兄弟たちに相談したかったのです。けれど闇の神さまが中腹の洞穴から近づくと火山は突然大噴火を起こし、噴火口は地上界ぐらいまでの高さになってしまいました。これでは、天にまでは届きません。 (その噴火は、地上で大陸が東西二つに割れるほどの大噴火だったそうです)  闇の神さまはあきらめ、天に帰りたい気持ちを押し殺したまま、地底のほら穴に居を構えて過ごすようになりました。そのころになると、天上神たちを思慕する気持ちはだんだんと、呪う気持ちに姿を変えていきました。  ……やがて、主だった魔族たちの間で彼のことを「地底をまとめるために遣わされた神だ」と信じる者たちが現れました。精霊たちが彼の元に従っているのが何よりの証拠です。精霊族を操れるのは、神さまだけなのですから。  魔族のうちの9人の氏長が話し合い、ほら穴に近づき、お供え物を置いて、ともにこの地底を統一してほしいことと、自分たちの王になってくれるようにと、お祈りしました。  けれど闇の神さまは、代わる代わるお供え物を置いても、なかなか魔族たちに心を開きません。  天上であれだけのけ者にされていたのですから、自信をなくしているのは無理もないことです。魔族の氏長たちはそんな事情は知りませんでしたが、それでも根気よく、洞窟に通いました。
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