公爵令嬢・オブ・ジ・デッド

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 そこまで言って気がついた。これは、この問答はわざとだ。  よく通る裁判官の低い声。サラサラとした筆記の音。  冷静になると裁判所は不自然に静かで私と裁判官の声だけが響き渡っていた。おそらくこの裁判に関与する者は全てグル。そして申し開きをすればするほど私が言い訳を重ねて罪を逃れようとしているように見えるよう仕組まれているのだろう。  既に全ての証拠は捏造された。私は家にでもいて出頭拒否したという証拠もあるのだろう。  父様。  母様。  そしてミシェル、まだ5歳の私の弟。  みんな死んでしまったのね……。  そして私も死ぬ。それは確定している。既に確定してしまった。  私の目の端、つまり広場の中央にはギロチンが聳え立っている。  であれば。であれば私は家族のためにも誇り高くあらねばならない。目に力を込めて背を反らして裁判官を真っ直ぐ睨みつけると、その瞳にわずかにたじろぎが浮かんだ。 「言いたいことは一つだけだ。たとえどのような証拠を捏造しようとも、どのような陰謀が働いているのだとしても。ヒューゴー公爵家はこの国の剣である。国に忠誠を誓い、決して謀反など起こさない。しかし王家が命を捧げよというのであればその命に従うッ! それがヒューゴー家だ。目に焼き付けよ」  立ち上がり、震える足を律してギロチン台に進み、震える指で木枠の隙間に自ら首を挟む。  周囲からどよめきが漏れる。  怖い。  そっと目をつぶる前にフリードリヒを見た。その視線にはとまどいと、それから混乱、そして少しの疑惑が揺れていた。  ああ、フリードリヒ。  あなたとは生まれてこのかた18年の付き合いだった。  あなたは私のことをよく知っているはずなのに。  なのにその女に誑かされたの?  まったく。本当に。  私でも死ぬのは恐ろしい。とても。体が震え出さないよう、叫びださないよう律するのが大変だ。  けれども私が最後に思ったのはそれとは違って。  ただ……『無念』。
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