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◇
「ミラベル⁉︎ ミラベルだな⁉︎ 返事しろ⁉︎」
「ぁ……ぅぐ……」
急に視界が明るくなる。何、だ?
目を、閉じられない。けれども世界はぼんやりしてよくわからない。体も上手く……体?
体は切り離されてしまったはずだが?
なんだか記憶がはっきりしないな。つい今しがたより混濁している。まるで全てが泥になったかのように重い。
「ふい、ど、り」
「そうだ。フリードリヒだ。おい、間違いなくミラベルだ。進めろ!」
何かぞわぞわと弱電流が流れるような気持ち悪さがあふれ、皮膚の表面がぐずぐずとしたものから土が固まるように引き締まっていく感覚が。気がつくとパチパチとまばたきをしていた。
揺れ動く視界も次第にその振動によって不純物が除去されるようにクリアになるに連れてゆっくりと収まっていく。ひゅごひゅごと喉をかすれる空気も通りが良くなり、先ほどと違い声帯を震わせて声を出す。
「フリードリヒ、様?」
「そうだ、私だ。ミラベル、よかった」
「一体、何が?」
思わずそう尋ねるほど、フリードリヒの姿は先程、死ぬ直前に見た姿から変わり果てていた。
全体的に薄汚れているが、最後に見たよりしっかりとした視線と精悍さを増した風貌。それから顎髭。うん? 記憶より5は年を取っているような。
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