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第六章 唯の身体に刻まれた、数えきれないほどの苦痛
「戻ったぞ」
唯は仮面を外し、目の色を銀に戻しながら、自室に向かった。
「お疲れ様です。依頼は完遂できたようですね?」
帰ってきたのが分かったのだろう。伊織が顔を出した。手には救急箱を持っている。
「ああ。それと、腹をカッターで刺された」
「さっさと脱いでください」
伊織は救急箱を床に置いて、ごそごそとガーゼと鋏、包帯を引っ張り出した。
唯は見せるのが初めてだなと思った。だが、躊躇うことなく、ロングコート、ジャケット、ワイシャツを脱ぎ捨てた。
「っ!」
伊織はあらわれた引き締まった身体を見て、目を見開いた。
唯の身体は、数多くの古傷に覆われていたからだ。
心臓や腹の辺りに、深い古傷が刻まれている。というか数が多すぎる。どれも深い傷ばかりだった。背中を見ると、古傷に塗れていた。
伊織は唯の左腕の外側に視線を投げた。
そこには左肩から手首までを覆う昇り龍のシルエットが刻まれていた。
今にも襲ってきそうなくらい迫力があって、とてもカッコいいな、と伊織は思った。そして、よく見ていたらハッとした。
シルエットが刻まれているところだけ、古傷が一切ないことに。
「この模様は?」
「証みたいなもんだな。生まれたときから、左腕にはこういうモノがある」
唯は低い声で言った。
「ここだけ、傷がひとつもないのは?」
伊織が首をかしげた。
「オレにもよく分からんが。これがあるところだけは、怪我をしても完全に治る。綺麗さっぱりな」
「自分でも不思議だと思っていたんですね」
伊織の言葉に唯がうなずいた。
「どうして、こんな傷塗れの身体を見て、そんな顔をするんだ?」
「それは治療が終わってから答えますよ」
顔を拭いながら、伊織が言った。
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