第四章 妻の暴走

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「誰だ?」  別の人間の気配を感じ取り、肩越しに睨みつけた。 「そこで動けなくなっている人の、妹です。あなたにお礼が言いたくて」  小柄な女が立っていた。 「礼、だと?」 「これで、もう、困ることがないので。放っておけば死ぬでしょう?」 「まともに生きられない身体にしただけだ。生かすかどうかは、お前達が決めればいい」  低い声で言い放った。 「こんな人、生かすわけがないでしょう。これで、すべてが終わります。誰が依頼したのかは分かりませんが、ありがとうございます」 「礼など不要。俺は依頼を達成しただけだ。……それと最後に。ボロボロの貴様を救う者など、誰一人、いやしない」  唯はそう言い、家を出ていった。  帰り道、応急処置だけでもと思い、ベルトをきつく右腕に巻きつけた。  スタスタと歩いていると、依頼人が通りかかった。  こちらに気づいて近づいてくるなり、黒のビニール袋を渡してきた。  中身を確認すると、札束がいくつか入っていた。  無言で立ち去ると、銀行にいき、それを預けた。成功報酬ということで五十万を渡してきたようだ。 「帰ったぞ」 「お帰りなさい」 「悪いが、手当てをしてもらえないか?」  唯は右腕に巻いたベルトを外しながら言った。 「こうなるって、最初から分かっていたのですか?」  伊織は怒りをあらわに尋ねた。 「無傷で帰る、とは言っていない」 「酷い傷ですね。そのままで、少し待っていてください」  伊織はどこからともなく、救急箱を持ってきた。それを開けると、ガーゼを鋏で傷の大きさに合わせて切り、はりつけて白いテープで端を固定した。腕の外側も確認し、刺し貫かれていないことが分かると、伊織は安堵した。  包帯を巻きつけると、伊織が手を止めた。 「初めてやりましたけれど、大丈夫そうですね」
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