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「誰だ?」
別の人間の気配を感じ取り、肩越しに睨みつけた。
「そこで動けなくなっている人の、妹です。あなたにお礼が言いたくて」
小柄な女が立っていた。
「礼、だと?」
「これで、もう、困ることがないので。放っておけば死ぬでしょう?」
「まともに生きられない身体にしただけだ。生かすかどうかは、お前達が決めればいい」
低い声で言い放った。
「こんな人、生かすわけがないでしょう。これで、すべてが終わります。誰が依頼したのかは分かりませんが、ありがとうございます」
「礼など不要。俺は依頼を達成しただけだ。……それと最後に。ボロボロの貴様を救う者など、誰一人、いやしない」
唯はそう言い、家を出ていった。
帰り道、応急処置だけでもと思い、ベルトをきつく右腕に巻きつけた。
スタスタと歩いていると、依頼人が通りかかった。
こちらに気づいて近づいてくるなり、黒のビニール袋を渡してきた。
中身を確認すると、札束がいくつか入っていた。
無言で立ち去ると、銀行にいき、それを預けた。成功報酬ということで五十万を渡してきたようだ。
「帰ったぞ」
「お帰りなさい」
「悪いが、手当てをしてもらえないか?」
唯は右腕に巻いたベルトを外しながら言った。
「こうなるって、最初から分かっていたのですか?」
伊織は怒りをあらわに尋ねた。
「無傷で帰る、とは言っていない」
「酷い傷ですね。そのままで、少し待っていてください」
伊織はどこからともなく、救急箱を持ってきた。それを開けると、ガーゼを鋏で傷の大きさに合わせて切り、はりつけて白いテープで端を固定した。腕の外側も確認し、刺し貫かれていないことが分かると、伊織は安堵した。
包帯を巻きつけると、伊織が手を止めた。
「初めてやりましたけれど、大丈夫そうですね」
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